第307話
場所は
「ついにこの日が来たわね」
「そうだね」
カナを誘った翌日に仮装を受け取りに行った僕は、袋の中身を見ないままみんなに手渡した。
そしてハロウィン当日の今日、ついに誰が何の仮装をしているのかが分かるのである。
ちなみに僕はゾンビの仮装だった。頬や腕の傷はシールで、身に纏っているのは衣装というより悲惨な目にあった人のボロボロの服。
まあ、下手に攻めたものよりかはいくらかマシだとは思うので、何も言わずに大人しく着ておいた。
「それじゃあ、
僕以外のみんなは、袋の中に全身を覆えるローブが入っていたらしく、黒ずくめの怪しい集団みたいになっている。
それを今から順番に脱いでもらうのだ。なかなか楽しみかもしれない。
「私からなの?」
「嫌なら最後でもいいよ」
「それはそれで嫌なのよね」
「なら最初にする?」
紅葉は僕の言葉に頷くと、首元のリボンを解いてローブを脱ぎ捨てた。
その中から現れた彼女は、黒とは掛け離れた深紅の頭巾を被っていて、エプロン姿がなんとも可愛らしい。
「赤ずきんちゃんだね」
「ええ、似合ってる?」
「すごくいいと思う」
「ふふ、
嬉しそうに頬を緩める紅葉。その背後で何かを察したようにため息をついた麗華は、「そういうことですか」と言いながらフードを脱ぐ。
その瞬間、灰色の毛がふわふわとした犬耳がぴょんと起き上がり、ローブが床に落ちると同時に腰の辺りに尻尾があるのが見えた。
「よりによって狼だなんておかしいと思ったんです」
「なるほど、赤ずきんが居てこその狼なんだね」
「要するに私と東條さんは一括りにされたわけです」
「……どうして嫌そうなのよ」
「嫌だなんてそんな。屈辱的だなと思っただけです」
「嫌がってる以外の何者でもないじゃない」
せっかくいいペアだというのに、赤ずきん紅葉さえも狼麗華に負けじと「がるる……」と威嚇し始める。
僕はそんな2人の間に入ってなんとか落ち着かせた後、麗華の頭についている狼の耳を見つめた。
「麗華、触ってもいい?」
「どうぞ♪」
「やった」
了解を得てから両手で片耳ずつ撫で、そのもふもふとした質感を堪能する。
そして片手は耳を触りながら、今度は大きくてふわふわな尻尾を掴んでみた。
麗華は耳と尻尾以外は黒を基調としたベストとスカートなのだけれど、尻尾はどうやらスカートの内側から伸びているらしい。
「そんなに揺らしたら下着が見えてしまいます」
「あ、ごめん」
「どうしてもというのなら、もっと弄ってもらってもいいんですよ?」
「じゃあ、後で触らせてくれる?」
「ふふ、了解です♪」
彼女はそう言ってにっこり笑うと、わざとらしく尻尾を紅葉の顔に当ててからソファーに腰かけた。
もちろん紅葉はこれにも突っかかったが、少しすると揺らされる尻尾を見つめ始め、そして軽く握った右手でペチンと叩く。
「紅葉、何やってるの?」
「あ、いや……その……」
「今のって猫パンチだよね?」
「っ……」
見られていたことが恥ずかしいのか、問い詰める度に口ごもってしまう様子が面白くてからかっていたものの、「そうよ、猫パンチよ!」と真っ赤な顔で開き直り始めた辺りでやめにしておいてあげた。
「じゃあ、次はノエル行こっか」
「はーい! のえるたその仮装はこれだよ♪」
そう言いながらフードを外して目に付いたのは、変わらずの満面の笑み、そしてサスペンダーのついた茶色の半ズボン。
髪を後ろでまとめていることもあって、正面から見ると少年のように見えるこの格好。僕には何なのか分からなかった。
「イヴちゃんも見せてあげて」
「……」コク
ノエルの指示に従って、イヴもローブを脱いで仮装を見せてくれる。
彼女の方はお人形さんのような水色のドレスを着ていて、童話の中の可愛らしい少女という感じだ。
あえて2人まとめて見せてくる理由、そこを考えればこの仮装の意図が何となくわかってきた。
「ああ、そういうことか」
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