第306話
「お兄さんとかなちー、どこまで行ったの?」
たなちーの質問がこれだった。僕が「どこまでって?」と聞き返すと、彼女はニヤニヤと笑いながら「恋人としてじゃん?」と2人を交互に見る。
「いや、付き合ってないけど」
「またまたぁ〜♪ 隠さなくてもいいっしょ?」
「本当のことだよ。ただの先輩後輩」
「なるほど、秘密の関係というわけだね!」
たなちーはしつこいインタビュアーのように、点棒をマイクに見立てて押し当ててきた。
どうやら信じるつもりは無いらしい。ちょっと面倒臭い勘違いをされちゃったなぁ。
「男の子同士でも片方が男の娘ならありだよね〜」
「そ、そうなんですか?」
「そりゃもちろん!」
「ボクにもまだチャンスが……」
たなちーの言葉に感化されたらしいカナは、何かを決心したように力強く頷くと、そっと手を差し出してきた。
「ま、まずは手を握るところから……」
「さすがに初心すぎない?」
「久しぶりなので緊張するんですよ!」
とりあえず手くらいは減るものじゃないので握ってあげることにする。
続くハグもしてあげたが、さすがにキスをせがまれた時には断った。これを了承するわけにはいかないもんね。
「減るもんじゃないのに……」
「それでもやり過ぎは良くない」
「ボクは本気ですよ?」
「そう言われると困っちゃうよ」
別に男だからとかは気にしていない。今更カナの性別なんてどうでもいいのだ。
ただ、問題なのは恋愛感情が分からないこと。少なくとも今の僕は、カナを恋人にしたいとは思っていない。
「なんだ、ラブラブじゃないのか〜」
「初めからそう言ってるでしょ」
「たなちー、うっかり♪」
てへっなんて言いながら舌を出してみせる彼女を、「質問終わったから僕の秘密ターンは終わりだね」と滑らかにスルーしておいた。
「ボクの秘密……しかも5個……」
「悩むならたなちーが質問したげよっか?」
「い、嫌な予感が……」
その後、「お兄さんと付き合ったら何したい?」だとか、「かなちーは攻め? それとも受け?」だとか色々聞かれたことは言うまでもない。
カナはルールだから仕方ないと恥ずかしさを堪えて答えていたが、5つめの質問である「お兄さんがダメならたなちーと付き合う?」という言葉には、ブンブンと首を横に振っていた。
「あ、嫌なんだ?」
「嫌というか……
「ふーん、可愛いじゃん♪」
「うぅ、やめてくださいよぉ!」
ニヤニヤとするたなちーに、頬をむにむにとされて嫌がるカナ。
見た目こそ女の子同士だが、カナの男でいる時の性格的には意外とお似合いなのかもしれない。
「たなちー、カナを幸せにしてあげてね」
「あたぼーよ!」
「か、勝手に決めないでください!」
たなちーは、「先輩とキスするまでは死ねません!」と叫ぶ彼に「キスの先は?」と聞いてニンマリと頬を緩めた。
「さ、先……?」
「最後になるかもしれないなら、キスだけで終われないっしょ?」
「た、確かに……」
「やりたいことは全部やらないと、ね?」
たなちーの口車に乗せられて「でも、男の子同士でどうすれば……」と悩み始めるカナに、僕はこっそりと後ずさる。
そのままバック走行で店の裏から出ると、一直線に出口から飛び出した。既に本来の目的は達成しているし、危険なあの場所に留まる理由もなかったから。
「お兄さん、また遊んでねー!」
逃げ帰る僕の背中を眺めながら、元気に両手を振りながら見送るたなちーの横で、カナは何かを決心したように右手をぎゅっと握り締めたのだった。
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