第305話
言われるがまま店の奥へと連れ込まれた僕は、後ろから不安そうに見てくるカナに「いい加減前閉めてよ」と伝えてからたなちーと向き合う。
「ここで何をするの?」
「楽しい遊びって言ったら、あれしかないっしょ?」
彼女の言葉に、さすがの僕もある程度察せてしまった。人目につかない場所で行われる遊びなんて、そっち系しかないだろうし。
「僕、したことないんだけど」
「たなちーが教えてあげようじゃないの!」
「でも、バレたら大変なことになるよ?」
「2人が黙ってれば大丈夫大丈夫!」
たなちーはそう言いながら僕を席に着かせると、カナのことも連れてきて隣に座らせた。
彼女自身は反対側の隣に座り、これで四角い机を三方から囲っている形になる。これから行われる楽しい遊び、それは――――――――――――。
「賭け麻雀っしょ!」
そう、法的におそらくアウトな賭け麻雀である。別に誰かに向けて言っている訳では無いけれど、いかがわしいことを想像した人には反省していただきたいね。
「何を賭けるの?」
「お兄さんお金はあんまし持って無さそうだし……」
「随分と失礼だね」
「じゃあ持ってるの?」
「まあ、1000円だけ」
「それを取っちゃうと心が痛むじゃん?」
たなちーは「だ・か・ら♪」とニコニコ笑いながらこちらを指さしてくると、楽しそうに敗者の支払う代償を宣言した。
「賭けるのは『秘密』にしよう! この場にいる他の2人が知らない秘密をひとつ言うこと!」
「秘密かぁ、そんなのあるかな?」
「ひとつくらいあるっしょ?」
「たなちーはともかく、カナが知らないことってなんだろうね」
そう言ってカナの方を見てみると、彼は少し興味ありげな目をしているではないか。
カナと出会ったのが中学だから、小学生までの話をする必要があるんだけど、やっぱりすぐには思いつかないや。
「まあ、ビリにならなければ言う必要は無いかんね」
「それもそっか」
「負けられないです……!」
3人はそれぞれの理由で意気込み、勝負に挑んだのであった。
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勝敗が確定したのは、それから2時間後のこと。1戦目で敗北した僕は『勝ったらひとつ取り消しにして』と頼んで最後に精算することにしたのである。
それによって、たなちーが0敗、僕が3敗、カナが5敗という結果に終わり、負け数分の秘密を話すターンになってしまった。
「じゃあ、僕から言うね」
「ばっちこーい!」
「小学二年生までおねしょしてた」
「え、おねショタ?」
「違うよ、おねしょ」
小二のおねしょはまだ可愛らしいが、おねショタは全くもって可愛らしくはない。
と言うよりも、それを平然と言えてしまうたなちーのメンタルを恐ろしく思うほどだ。
「私なんて小四までおねしょしてたけどねっ!」
「自分から暴露していくスタイル?」
「だから恥ずかしがらなくていいぞ、お兄さん」
「いや、恥ずかしがってはないよ」
秘密ではあるから話したけれど、特に恥ずかしいかと聞かれればそうでも無いというのが正直なところ。
「2つ目は……そうだね、ここに来た目的がカナをハロウィンパーティーに誘うためってことかな」
「ハロウィンパーティーですか?」
「そう、みんなでやることにしたからさ」
「絶対行きます!」
そんな感じでついでに参加確認も取れたところで、僕は最後の秘密を探そうとするのだけれど。
「3つ目は、私からの質問への答えでもいい?」
たなちーの言葉によって、言いかけていたあの秘密を引っ込めることにしたのだった。
「いいよ、答えられる範囲なら」
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