第298話

【副会長説得の心得】

・自分よりも上の存在として扱うこと

・見た目より中身を褒めること

・猫髪には触れないこと


 これを何度も暗唱させられた僕は、疑問に思ったことを会長に聞いてみた。


「最後の猫髪には触れないことってのは、物理的にですか?」

「ああ、そうだ」

「噛まれたりするんですか?」

「いや、私だけが触りたいからだ」

「……お互いに好きなんですね」

「寧々子は良い奴だからな」


 若干百合を思い浮かべつつも、会長からの好意はおそらく信頼という意味だろうと自分に言い聞かせて邪念を振り払っておく。


「ちなみに、捧げ物をすると褒めてくれるぞ」

「完全に手下じゃないですか」

「私もそうやって丸め込んだ」

「何をあげたんです?」

「うんまい棒だ」

「……随分と安上がりですね」

「チョコがコーティングされたやつだぞ?」


 会長は窓の外を眺めながら「去年のバレンタインに貰ったものを譲ったんだが、かなり喜んでくれたな」としみじみ呟く。

 その背中を見ていた僕と紅葉は、互いに顔を見合せて「「だから好かれてるんだ」」と頷いたことは言うまでもない。

 バレンタインということもあって、きっと勘違いしちゃったタイプなのだろう。まあ、面白そうだから事実は教えないでおくけれど。


「とりあえず、捧げる物を探さないとよね」

「飴じゃダメかな」

「私は好きだけど……あの副会長が飴なんかで動くとは思えないわ」

「紅葉が好きならいけるでしょ」

「どういう理屈なのよ」


 少し不満そうに聞き返してくる彼女はスルーし、僕はカバンからミルク飴を取り出して副会長へと近付く。

 彼女もこちらの行動に気が付いたようで、手元のプリントから顔を上げてキッと睨んできた。


「まだ何か用?」

「えっと、飴いります?」

「……中に何か入れてるんじゃないでしょうね」

「さすが副会長、鋭いですね」


 ミルク飴なので、もちろん中にミルクが入っている。包装された状態からそれを見抜くとは、伊達に会長のサポート役をやってる訳じゃないんだね。


「自白するなんてバカね。そんな危険なもの、私が食べるわけないじゃない」

「確かに紅葉はこれ無しじゃ無理って言ってましたし、危険といえば危険ですね」

「あなた、あんな小さい子に何食べさせてるのよ」

「食べたそうだったので」

「……卑劣にも程があるわ」


 何か猛烈に勘違いされている気がしなくもないが、弁解するのも面倒なので実際に食べてもらおう。

 そう思って飴を強引に口に入れようとするが、副会長はブンブンと首を横に振ってイヤイヤモード。

 他の生徒会メンバーに見られている中で食べさせられるのが恥ずかしいのかもしれない。そう思った僕は、「大丈夫です、すぐに慣れますよ」と優しく声をかけてあげた。


「なっ……あなた、私に何かよからぬ事をしようとしてるのね?!」

「?」

「とぼけても無駄よ。いくら私が美人で完璧だからって、あなたごときに劣るわけが無いでしょう」


 飴を押し返しながら「私の体は咲優さゆのものなんだから!」と叫ぶ彼女。

 何とも微笑ましくはあるが、こちらも納得してもらわなければ帰れないので、致し方なくズルい手を使うことに。


「会長が食べてって言ってましたよ」

「なら食べるわ!」


 たった一言、ほんの数秒で鉄壁の守りは崩れ落ち、飴は副会長の口の中へと消えてしまった。

 そこからは順調なもので、飴の虜になった彼女は会長の「頼む」という援護射撃のおかげもあって、渋々僕たちの手伝いをすることを許可してくれる。

 こう言っては悪いが、正直ちょろ過ぎた。やっぱりツンデレさんは扱い方を知れば単純なんだね。


「……だから、どうして私を見るのよ」

「やっぱり可愛いなって」

「ほ、褒めないでちょうだい……」


 その後は顔を真っ赤にした紅葉を抱えて生徒会室を後にし、会長と3人でハロウィン当日の計画を立てるのであった。

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