第297話

「そう言えば、そろそろハロウィンよね」


 とある日の昼休み、ベンチの背もたれに体を預けながら紅葉くれはがそんなことを言った。


「どうしたの、飴いる?」

「お菓子が欲しいわけじゃないわよ!」


 そう言って一度は拒むものの、「……貰えるものは貰うわ」と飴を口に放り込んで幸せそうな顔をする彼女。

 言われてみれば、確かに10月31日は来週末だ。

 かと言って、ハロウィンだからと街を練り歩いたこともなければ、恥ずかしげもなく他人に菓子を要求したことも無いんだよね。


「ハロウィンデビューしたいの?」

「初耳ワード出さないでもらえる?」

「パリピになりたいのかと思って」

「んなわけないでしょうが」


 二人で「分かり合えないもんね」「水と油よ」なんて頷き合っていると、お弁当を食べ終えた麗華れいかが苦笑いをしながらこっちを見た。


東條とうじょうさんはもう少し社交的になった方がいいと思いますけどね」

「何よ、自分はパリピですみたいな顔しちゃって」

「私は本物のパーティに呼ばれることがありますからね、庶民には分からないかもですけど」


 紅葉を攻撃するつもりで僕にまで流れ弾が当たっているような気もするけれど、たまにあることなので気にせず体をリラックスさせる。

 すると、校舎の窓からこちらを見つめる人物と目が合った。彼女は軽く手を振ると、そのまま忙しそうにどこかへと行ってしまう。


瑛斗えいと、何を見てたの?」

茶柱さばしら会長がいたんだよ」

「あの人のことは気にしない方がいいわ、ちゃっかり瑛斗を奪おうとするような人だもの」

「奪うって、僕は誰のものでもないけどね」

「っ……そういうことは言わなくていいのよ!」


 ペシペシと不満そうに肩を叩かれるが、僕が会長を見ていたのは気にしているからでは無い。

 内面はどうであれ、あれだけ見事に進行役を務めたあの人なら、いいことを教えてくれると思ったからなのだ。


「パーティの仕方、教えてもらおうよ」

「どうして?」

「あれ、したいんじゃないの?」

「……したいけど……わざわざ聞く?」

「僕たちの知識でやったら爆発するよ」

「何が?!」

「家が」

「……パーティってそんなに恐ろしいものなの?」


 おそらくそんなことはないと思うが、脅した甲斐もあって紅葉は大人しく会長に聞きに行くことにしてくれた。

 麗華の方は今日は放課後に用事があるらしく、2人だけで行ってきて欲しいとのこと。


「じゃあ、アポ無しで突撃だね」

「迷惑じゃないかしら」

「大丈夫だよ、いざとなったら紅葉に雑用でもしてもらえば解決だし」

「……やっぱりやめようかしら」


 そんなことを言いながらも、6時間目後のホームルームが終わってすぐに「行くわよ」と声をかけに来てくれたから、きっと楽しみにしてるんだね。

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「――――――そういうわけでここに来ました」


 そして僕と紅葉は今、生徒会室にいる。

 生徒会室って結構高級感溢れる内装なんだね。学校だとは思えないよ、さすが学校一のステータス持ちが作業する場所だね。


「なるほど、瑛斗クンの要求は理解した。だが、生憎手を貸すのは難しいんだ」

「すごく暇そうに見えますけど」

「ああ、暇だ。昼休みの内に残っていた仕事を終わらせたからな、暇で仕方がない」

「ならどうして助けてくれないんですか」


 僕がそう聞くと同時に、背後にいた女生徒が立ち上がってこちらへと近付いて来る。

 彼女は会長の横に経つと、キリッとしたツリ目でこちらを見つめながら「お引き取り願える?」と口にした。


「会長、この人誰ですか?」

「副会長だ。私を束縛したいらしい」

「ち、違うわよ! 仕事をしすぎだから休んでって言ってるだけじゃない!」

「そんなに私のことが好きか?」

「っ……ば、バカじゃないの?!」


 副会長は「体を壊しちゃえばいいわ!」と言って顔を背けると、猫耳のようになった髪を揺らしながら不機嫌そうに自分の席へと戻っていく。

 どうやら紅葉と同じでツンデレさんらしいね。どうりで雰囲気が似てると思ったよ。


「……どうして私を見るのよ」

「可愛いなと思って」

「っ……バカじゃない?!」

「やっぱり同じ反応だね」


 顔を赤くして怒る彼女のほっぺをむにむにとやって宥めた後は、頭を撫でながら会長との交渉に話を戻した。


「副会長を説得する方法はないんですか?」

寧々子ねねこは犬が嫌いなんだ。ドーベルマンでも連れてくれば、言うことを聞いてくれると思うぞ?」

「もっと穏便な方法でお願いします」

「なら、あいつに好かれるしかないな」

「好かれる……?」


 僕が初対面の人間に好かれるような能力は持っていないし、どうすればいいのかと悩んでいると、会長はニッと笑いながら補足してくれた。


「ちなみに、寧々子はプライドが高い。自分よりランクが低いやつの言うことは聞かないからな」

「……何級なんですか?」

「A級だな」

「よし、紅葉号発進」

「わ、私なの?!」


 F級の僕が行っても、ゴミを見るような目を向けられるだけだろうからね。ここは同じツンデレ同士、ツンツンし合って仲良くなってもらおう。


「あ、あの……副会長さん……?」

「なに、忙しいのだけれど」

「え、えっと、いいお天気ですね」

「だから何?」

「……」


 まあ、落ち込みながら帰ってくるところまでは想定済みだったけどね。ランクの前にコミュ力が大事だったよ。

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