第299話
「まず、質問させてもらう。ハロウィンパーティーに必要なものはなんだ?」
「お菓子ですか?」
「いや、違う」
「お菓子を入れるための容器じゃない?」
「お菓子関係から一旦離れろ」
やれやれと首を振る
ハロウィンパーティーなんてやったことがない2人に、必要なものを聞いても答えられるはずもないと言うのに。
「お前たちは今どこにいるんだ?」
「手芸部の部室前です」
「そこから何かわからないのか」
「……人形を作るんですか?」
「違う! ハロウィンと言えば仮装だろうが」
隣でハッとする紅葉に共感しつつ、「それなら店に行けばいいじゃないですか」と言うと、会長はいい作戦があるのだと部室のドアを開いて中に入った。
「失礼するぞ」
その直後、ドタバタという足音と共に「あら、会長?」「会長さんが来ましたよ!」「ん、まだ眠いのに……」という3人の声が聞こえてくる。
「あれ、
「
部室の中には何故か萌乃花がいて、彼女は毛布に包まっている女生徒を揺らしていた。
その本人には全く起き上がる気が無いらしいが。
「どうしてここにいるの?」
「私、手芸部に入ったんです。手先が器用になりたくて……」
「確かに不器用だもんね」
「そう言われると傷つきますよぉ!」
「ごめんごめん」
彼女の不器用さはステータスが証明しているし、今更な気もしなくはないけれど、本人が嫌がるならあまり言わないでおこう。
「ゆん、相変わらず眠そうだな」
「会長、何しに来たのじゃ」
「そんな迷惑そうな顔するなよ、お前のために朗報を持ってきたんだから」
「……朗報?」
ゆんと呼ばれた女生徒はそのワードに反応して体を起こすと、するりと毛布から抜け出して萌乃花の腕を掴むと――――――――――。
「こやつを追い出してくれるのじゃな?」
心底不満そうにそう言った。初めはぼーっとしていた彼女も言葉の意味を理解すると、目を見開いて「いやいやいや!」とゆんを止めに入る。
「部長、どうして私を追い出すんですか?!」
「部員を稼ぐために入れたはいいものの、針を折るわ、ミシンは詰まらせるわ、挙句の果てには作った服を破きおったでは無いか!」
「そ、それはそうですけど……」
「ただでさえ部費ギリギリで活動してると言うのに、買い換える資金が足りんのじゃ!」
「あぅぅ……」
眠そうな状態から一転、萌乃花を言葉で猛攻撃し始めた彼女は、ひとしきり言い終えると肩で息をしながら会長を見た。
「強引にやめさせることは出来ぬ。だから、
「いいや、私は生徒の自由を尊重したい。だからその頼みは聞けないな」
「なら朗報とは一体何なのじゃ!」
「そう焦るな、なんのためにこの2人を連れてきたと思ってる。お前たちに起死回生のチャンスをやるためだろう?」
会長はそう言うと、ゆんの肩にそっと手を添える。そしてポケットから取り出した紙を見せながら、にんまりと愉しそうに笑った。
「こいつらに仮装を作ってやれ。上手く行けば次の会議で部費を上げてやらんことも無い」
「……マジじゃな?」
「ああ、マジだ」
2人はしばらく見つめ合うと、ゆんの方が部室奥でのんびりと座っていたもう一人の部員に話をしに行く。
数分後、戻ってきた彼女はこの提案を受けいれ、無事に僕たちの仮装を作ってもらえることになった。
「でも、手作りなんて大丈夫なんですか?」
「安心せい、溶けて無くなったりはせん」
「その心配はしてないんですけど」
どこかの18禁ゲームじゃないのだから、緑色の液体モンスターに襲われてドロドロなんて展開はありえない。
心配しているのは、布が薄くなったり簡単に解れてしまったりしないかということだ。
「こう見えてゆんの腕はなかなかだ。家事力のステータスがトップクラスだからな」
「へぇ、それは頼もしいですね」
「仮装が必要なのはお前らだけじゃないだろ? 他のやつの写真を見せておけば、こいつならぴったりに作ってくれるぞ」
「じゃあ、追加で他に5着作って貰えます?」
「生憎布が足りないのじゃ」
「そこも生徒会が負担するから安心しろ」
「なら文句は無いのじゃ、たんまりお金を使って最高傑作を作ってやるから楽しみにしてるんじゃな!」
手芸部の部室がある旧校舎に、しばらくゆんの笑い声が響いていた。よっぽど裁縫が好きなんだね。
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