第285話
あれから6日が経って、この間に
多い日は3回呼ばれたこともある。まあ、大半がおやつが欲しいだとか宿題を手伝って欲しいと言ったもので、彼も仕方なく手を貸してあげたけれど。
「瑛斗くん、
「そう言えば、一度も見てないね」
明日から中間テスト。戦に備えた勉強に一区切り付け、少しばかりの休憩中にそんな雑談を挟む。
「学校にも来てないんだよね。せっかく変装して帰ってるのに」
「仕事が他の人に回ったから、そのサポートで忙しいんじゃない?」
「そうかも。テスト終わったらたくさん働かないと」
「その前に謝ろうね。紫波崎さんなら、ノエルの気持ちもわかってくれると思うから」
「……そうだね」
ノエルだって分かっているのだ。アイドルである以上、仕事を投げ出したことは間違った行為だと。
もしも誰か偉い人に両立させれないならやめろと言われてしまえば、今の彼女には返す言葉もない。
しかし、進級を選んだのには理由がある。アイドルとして公には言えないことだが、自分の中にしっかりと持った真っ直ぐな
「そう言えば、ここって家賃高そうだね」
「買ったらしいよ。値段は聞いてないけど」
「すごいね、翠の親がお金持ちとか?」
「ううん、あの子の自費」
「……アイドルってそんな稼いでるの?」
「そこそこ有名だからね♪」
そう言って微笑むノエルと目が合った瑛斗は、ふと彼女の家を思い浮かべて首を傾げる。
彼女の家はごく普通の一軒家で、このマンションよりもこじんまりとしているのだ。まさかあの家にアイドルが住んでいるなんて、通りすがりの人間が思うはずないほどに。
「でも、翠と違ってノエルの家は普通だよね」
「私はほとんど給料は貰ってないからね」
「どういうこと?」
「生活に必要な分と、その月の仕事の数に応じたボーナスだけを貰ってるの」
「でも、たくさん働いてるよね?」
「説明すると難しいんだけど―――――――」
ノエルが言うには、彼女の契約は本来、イヴが自分を守るために結んだもので、期間は残り1年になっている。
自分自身の決断で契約を延長するその時までは、給料は最低限しか貰わないと決めたのだ。
もちろん、何かの法律に抵触しては困るので見合った金額を渡したことにはなっているが、それらはノエルの周りで働く人たちの給料へと回されているらしい。紫波崎さんもその中の一人だ。
「それに、今の私にはイヴちゃんがいれば文句ないから」
「今となっては、あんなに嫌ってた時期があるなんて信じられないね」
「あんなことがあったからこそ、あの子を何倍も大切に思えるんだもん。もちろん、秘密を暴いてくれた瑛斗くんにも感謝してるよ?」
「僕は自己満足でやっただけだから」
彼の言葉にノエルは「謙虚だねぇ」とどこか嬉しそうに笑う。それから思いっきり伸びをすると、目の前の教科書に視線を落とした。
「あのさ、瑛斗くん」
「なに?」
「
「普通のことだよ。お笑い芸人がプライベートで面白いことやってよって言われたくないのと同じ」
瑛斗はそう言うが、彼女からすれば『のえるたそ』として見ない友人は普通ではない。話していて心の休まる、すごく特別な存在なのだ。
「ていうか、急にどうしたの?」
「ううん、ちょっと言いたくなっただけ」
微笑みながら首を横に振ったノエルは、「ただ……」と少し躊躇いながらこちらをチラチラと見てくる。
そして意を決したように小さく頷くと、瑛斗に歩み寄ってギュッと手を握った。
「お願いがあるんだけど……」
「またおやつ? 少し控えた方がいいと思うなぁ」
「ち、違うよ?!」
見当違いなことを言われてわたわたと否定した彼女は、すぐにコホンと咳払いをして落ち着きを取り戻す。
それから大きく深呼吸をすると、その『お願い』をゆっくりと口にした。
「もし、瑛斗くんよりいい点が取れたら、一人の女の子としての私にご褒美をくれない……?」
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