第283話
カナのバイトを手伝った翌日の放課後。
「そういうわけだから、来週末まで
突然部屋に上がり込んできたノエルが、そんなことを言ってきた。
この少し前に理由を話された訳ではなく、ドアが開くと同時に「そういうわけだから」と言われたのである。
僕は心の中で『どういうわけだよ』とツッコミを入れつつ、口でも「どういうわけだよ」と突っ込んでおいた。
「とりあえず、理由を教えて」
「あっ、そう言えば忘れてた……」
後ろ頭をかきながら「脳内予行演習し過ぎて言った気になってたよ」と苦笑いすると、ベッドに腰かける僕のすぐ目の前に腰を下ろした。
アイドルが床、自分がベッド。見下ろす形になっているのがものすごく違和感だけれど、本人は気にしていないようなので黙っておく。
「今日ってテスト一週間前でしょ?」
「そうだね」
「こう見えて私、一学期末の成績ギリギリなんだ」
「忙しいから仕方ないよ」
「でも、高校に通う以上は進級しなきゃ」
僕は「じゃないと、アイドルは馬鹿だってネットで叩かれるし」と伏せ目で呟くノエルから、世間の闇のようなものを感じ取った。
それと同時に、彼女がここへ来た目的も察する。ほぼ答えを言われたようなものだけどね。
「テスト勉強したいんでしょ」
「ど、どうしてそれを……?」
「顔に書いてあるもん」
「えっ、
「そういう意味じゃないよ」
慌てながら手鏡で確認し始める彼女をそっと宥めつつ、自分もベッドから降りて目線の高さを合わせてあげる。
匿ってと言うのなら断るつもりは無いが、やはり状況を知っておくべきなのだ。自分のためにも、ノエルを守るためにも。
「私、成績が悪いからテスト頑張らないと危ないんだ。でも、
「つまり、隠れる相手は紫波崎さん?」
「そう。瑛斗君ならテスト勉強にも付き合ってくれると思って。迷惑なら諦めるんだけど……」
申し訳なさそうに床を見つめる彼女。もちろん頼られて迷惑と思うはずがない。
ただ、問題なのは自分の都合よりも、一緒に住んでいる2人の方だった。
「あっ! やっぱりノエル先輩来てる!」
突然開かれたドアから部屋に入ってきた
「まさか、また同居人を増やそうなんて考えてないよね?」
「……」
「図星なんだ。絶対ダメだよ? ただでさえ
そう、奈々からすればノエルも兄に近付くライバル。イヴは良くてもノエルがダメなのは、そういう感情があると思っているからだろう。
確かにノエルは僕に好きだと言ってくれたけれど、あれはきっと社交辞令か友達としての意味だろうし、
「奈々ちゃん、2週間だけお願い!」
「うっ……直接頼まれると断りづらい……」
「MyTubeに投稿した仲だよね?」
「ぐぬぬ……」
奈々はうるうるとした瞳を向けられてしばらく葛藤していたようだが、やがて観念して「わかりました、2週間だけですからね」と許可してくれる。
「ありがとう、奈々」
「ダメって言ってもお兄ちゃんはこっそり泊めそうだし」
「よくわかったね」
「何年一緒にいると思ってるの」
ドヤッと胸を張って見せ?彼女はノエルに頭を撫でられてご満悦。ただ、もう一人注意しておかないといけない相手がいる。
先ほど話にも出てきた音鳴さんだ。いくらアイドルだからといって、この場所にいることをSNSに呟かれたりしたら大変だ。
そう思って「音鳴さんにも伝えてくる」と部屋を出ようとした矢先、向こうから階段を上ってやってきてくれる。噂をすればなんとやらだね。
「瑛斗君、今日の夜はお鍋に……ってのえるたそ?!」
「ど、どうも……ってこの人誰?」
ファンだったのかパシャパシャとカメラを連射し始める音鳴さんを落ち着かせ、そう言えばまだ説明していなかったとノエルに彼女のことを教える。
奈々の時を合わせるともう4回目の説明だ。漢字の説明は3回目だけど。
「ノエルを泊めることになったので、音鳴さんにはこのことを他言しないで欲しいんです」
「……あ、うん。そうやね」
「音鳴さん、まさかですか?」
「っ……」
ほんの少し顔の青ざめた音鳴さんが見せたスマホの画面には、既に『目の前にのえるたそいるんやけど!』という一文と共に投稿されたものが。
すぐに削除してもらったものの、数秒後に『今からお迎えに上がります』という紫波崎さんからのメッセージがノエルに届いた。
「もう紫波崎さんにバレちゃったね」
「ど、どうしよう!」
「ノエル、仕事は本気でサボるつもりなんだよね?」
「そうしないと無理だし……」
「絶対に後で怒られるよ。その覚悟はある?」
「……覚悟してなきゃここまで来ないよ」
その真剣な眼差しに深く頷いた僕は、彼女の手を取って廊下へと出る。
そして奈々に「紫波崎さんが来たら誤魔化しといて」と伝えてから、大急ぎで家を飛び出したのだった。
「ど、どこ行くの?」
「代わりに泊めてくれる人のところ」
「でも、誰のところに……」
「ノエル、
「えっ?」
ノエルは戸惑いながらも「メンバーなら助けてくれると思うから」という言葉を聞くと、少し考えてからその名前を口にした。
「
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