第273話
同日の昼過ぎ。「ランニングしてくる!」と朝早くに出かけた
タオルで汗を拭きながら「お風呂入ってくるね」とにっこり微笑んだ彼女は、「掃除したばかりだから綺麗だよ」という言葉で足を止める。
「お兄ちゃんが掃除してくれたの?」
「ううん、この人」
「そっか、私のためにお兄ちゃんが……って誰?!」
奈々は嬉しそうな顔を驚きに塗り替えると、せっせと食器洗いをしてくれている女の人を見つめた。
しかし、しばらくすると何かを思い出したように「ああ!」と頷き、再度カクッと首を傾げる。
「どうしてお隣さんがここに?」
「奈々も見たでしょ、隣家の惨状を」
「……あれ、取り壊しじゃなかったんだ」
奈々のランニングルートは家を出て左側の道路から公園まで走り、大きく回って右側から帰ってくるらしい。
その時には水道も止められて車も運ばれた後だったから、確かに取り壊しに見えても仕方ないかもしれないね。
「住む家がないから1ヶ月だけ泊めてあげたいんだけど、奈々はどう思うか聞こうと思ってたんだ」
「でも、私お隣さんのことあんまり知らないよ?」
「僕も従兄の人とイチャついてるところしか見たことないね。そうでなくてもちょっとやばい人だって分かったし」
「っ……」
酷い言われようにお隣さんの方がピクッとなるのも気にせず、2人は泊める泊めないの話し合いを続けた。
「
「友達の隣人なんて赤の他人だよ?」
「なら
「部屋だって言われて地下牢に入れられちゃう」
奈々は「え、地下牢なんてあるの?」と若干引きつつ、洗い終えた皿を拭いているお隣さんに目を向ける。
彼女からすれば兄と二人暮しという幸せの空間に、1ヶ月も邪魔者が滞在するということなのだ。
これでは襲おうにも襲えないし、何より大人の女性が居ては自分と違って色々な問題が発生してしまう。
例えばお風呂で鉢合わせたり、パジャマ姿に色気を感じてしまったり、もしかすると強引に襲うなんて頭のおかしい行動にも出るかもしれない。
……ブーメランが刺さったような気がするけれど、そんなことはどうでもいい。
お隣さんは見た感じまだ20代半ば、男子高校生からするとまだアリな年齢なのだ。ひとつ屋根の下には置いておけないだろう。
「私は反対かな。お隣さんには悪いけど」
「ど、どうして?! ウチ、何でもするよ?」
「一人称ウチなんだ……ってそんなことより、そのセリフが危ないんです!」
「もしかしてお兄ちゃんが心配? 安心して、ウチは年下に興味無いから♪」
「う、嬉しいような、兄をバカにされたような……」
いくら年齢的に興味がなくとも、人間である限りは理性にも限界はある。奈々の目が確かであれば、お隣さんはかなり限界値が低いタイプの人間だ。
そして理性が吹き飛べば、躊躇いなく押し倒してしまうだろう。これは奈々も経験済みなので間違いない。
「それでもダメです!」
「奈々ちゃんのケチぃ」
「居候する立場なのに随分と偉そうですね?」
「だって減るもんじゃないじゃん?」
「お兄ちゃんの初めては一度きりなんですよっ!」
そんな叫びを聞いたお隣さんは「ふーん、そういう関係かぁ」と頷くと、にんまりと笑って奈々に手招きをした。
半信半疑で近づいた彼女は耳元に口を寄せられると、何かを囁かれてくすぐったそうにしつつ、じわじわと顔を赤らめていく。
「そ、そんなこと……」
「お姉さんが手伝ってあげるから、ね?」
「……は、はぃ」
一体何を吹き込まれたのかは分からないけれど、それによって奈々もお隣さんを泊めることに同意してくれた。
これにてひとまず大きな壁は乗り越えたってところだね。あとはなるべく早く工事が終わってくれるといいんだけどなぁ。
「ところで、お隣さんはどうして戻ってきたんですか? 結婚したわけじゃないんですよね?」
「…………」
「ど、どうしてそんな暗い顔するんですか?!」
その後、地雷を踏んでしまった奈々は30分ほどお隣さんを慰め続けることになった。
「やっぱり、血縁者との恋は難しいんですね……」
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