第264話

 ゲームは順調に進み、目立ちたくない萌乃花ものかに降りかかる不幸を前に、紗枝さえは必死に食らいつこうとしていた。

 そして62ポイントと41ポイントで萌乃花が優勢のまま迎えた6ターン目、彼女は紗枝にこう聞く。


「あなたは本気で私と戦ってくれていますよね。そんな相手が手を抜くことを許せますか?」

「許せるわけないだろ」

「……ですよね。私は目立ちたくないと思っていますけど、本気でやって負けるべきなんですよね」


 それの意味するところはつまり、『偽物の種』を5つ集めた時の効果を利用するかどうかということ。

 彼女手にはすでに4つの種が渡っている。ここで手に入れることが出来れば、次の7ターン目で中央の宝箱の中身を10ポイントにすることが出来るのだ。


「では、左から2番目の宝箱は偽物の種が入っていますか?」

「……ああ、入ってる」

「わかりました」


 萌乃花はそう言ってにっこりと笑うと、先に宝箱の前へカードをセットする。左から2番目の宝箱の前にあるのは、F級の冒険者カードだ。


「じゃあ、わたしも質問する」


 紗枝はそう言うと左から3つ分の宝箱を指差して、「この中に銭袋オバケと花の怪物はあるか?」と聞いた。

 それに対して萌乃花が首を横に振ると、紗枝は迷うことなく右の2つの前にB級とC級を置き、一番左にF級、真ん中にA級を置く。

 ここで巻き返さなければ差を埋められない彼女にとって、このターンは攻めるべき時なのだ。


「じゃあ、オープンフェイズだ」

「開けますね」


【冒険者・萌乃花】

 B級―花の怪物   討伐

 F級―偽物の種   討伐

 C級―偽物の種   敗北

 ナシ―銭袋オバケ

 A級―ドラゴン   討伐


【冒険者・紗枝】

 A級―ドラゴン   討伐

 ナシ―偽物の種

 F級―偽物の種   討伐

 B級―花の怪物   討伐

 C級―銭袋オバケ  討伐


 両者開かれた宝箱の中は、互いが予想したものと大差ない。だが、2人ともがドラゴンにA級をぶつけたことで、差は思ったよりも縮まらなかった。

 これによって両者のポイントは以下の通りになる。


 紗枝・・・・60ポイント

 萌乃花・・・76ポイント


『手札』

 紗枝・・・・A級、B級、C級、F級

 萌乃花・・・A級、B級、F級


 そして両者の獲得したコマの中には、5つ分の偽物の種が存在している。

 手加減をするつもりがないふたりは、もちろんこのラストターンでそれらを消費した。


「中央の宝箱の中身が10ポイントになるんですよね」

「ただし、何のコマが入ってるかは分からない」


 最後の駆け引きは、それがドラゴンなのか偽物の種なのかということ。2人ともA級とF級を残している以上、攻め側が高得点を狙える可能性はいくらでもある。

 ただ、残ったカードがポイントに換算されるというルールを考えれば、逆に守り側からすれば冒険者カードを減らすチャンスでもあるということ。

 彼女たちはその両方の賭けを同時に行うことになるのだ。観客たちも盤面から目が離せない。


「よし、質問させてもらうぞ」

「どんと来いです!」

「真ん中に置いたコマは偽物の種か?」

「いいえ、違います」


 平然と答える彼女の様子に、紗枝はなるほどと頷いて手元のカードを並べ替えた。


「私も質問しますね」

「ああ、いいぞ」


『この宝箱に入っているモンスターは、A級で倒せますか?』


 萌乃花のその質問に、彼女は「ああ、倒せるモンスターが入ってる」と首を縦に振る。

 あまりにもあっさりとした答え方に、萌乃花は残していた嘘を使ったのではないかと思ったものの、嘘は残しておけば20ポイントになるのだ。

 そう考えると、劣勢の彼女が嘘をつくとは思えなかった。――――――――まあ、自分は使ったが。


「じゃあ、オープンフェイズだな」

「ですね」


 互いに顔を見合わせ、左から順に宝箱を開いていく。運命の最終ターンだからか、宝箱の蓋が重く感じられた。

 そして中央の宝箱が開かれた瞬間、敗北の文字が表示されたのを見て、彼女らの内の一人が目を丸くすることになるのであった。

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