第263話

「フィギュアのセットは終わったか?」

「は、はい!」

「なら、宝箱を並べてくれ」


 紗枝さえの「自分がどれに何を入れたか覚えといてくれよ」という言葉に頷き、丁寧に5つの宝箱を並べていく萌乃花ものか

 どこに何が入っているのかは配信を通して見ている他の生徒はもちろん、瑛斗えいとにも分かっていない。


【1ターン目】


「まずは質問からだな」

「はい! 何でも聞いてください!」

「じゃあ、スリーサイズはいくつだ?」

「92、ろくじゅうさ……って言いませんよ!」

「一番大事なところ言っちまったけどな」


 その内容ではゲーム側から質問と認められなかったようで、『YESかNOで答えられる内容にしてください』という文が画面に表示される。

 紗枝は「ていうか、92ってやばいな」と呟きつつ、羞恥心への攻撃で動揺し始めた彼女への新しい質問を考え始めた。


「そうだな、『ドラゴンはアタイから見て1番左か』ってのはどうだ?」

「えっと、そこにはないです!」

「なるほどな」


 この質問でドラゴンの位置を特定出来れば儲けもの。紗枝はそういう風に考えているのだろう。

 5つのうちどれかに入っていることは確定しているわけで、20%の確率で当てれる。このゲームにおいてドラゴンを取ることこそ最重要なのだから、これは当たり前の質問だ。

 しかし、そんな普通の光景に瑛斗は違和感を覚えていた。先のゲームではズルい手を使うことを厭わなかった彼女が、今回は何もしないとは思えなかったから。


「私も質問しますね。『真ん中の宝箱にはドラゴンが入っていますか?』」

「NOだな」

「なるほどです」


 お互いにドラゴンの位置を特定できないまま、2人は宝箱の正面にカードをセットする。

 その際はお互いの表情が見えないようにカーテンで隠される仕組みなのだが、それが開いた瞬間に萌乃花が「あっ」という声を漏らした。


「ぜ、全部にセットする必要ないんですよね……」


 彼女はルールを勘違いして、5つの宝箱全てに冒険者カードをセットしてしまったのである。

 このミスは、最悪の場合一気に5枚とも失う可能性のある大失態。それに対して紗枝がセットしたのは2枚だけ。しかし、より表情を曇らせていたのは彼女の方だった。


『冒険者・紗枝』

 ・ナシ―花の怪物

 ・ナシ―偽物の種

 ・ナシ―偽物の種

 ・C級―銭袋オバケ  討伐 5ポイント

 ・A級―ドラゴン   討伐 10ポイント


『冒険者・萌乃花』

 ・B級―銭袋オバケ  討伐 5ポイント

 ・A級―ドラゴン   討伐 10ポイント

 ・D級―花の怪物   討伐 3ポイント

 ・F級―偽物の種   討伐 1ポイント

 ・E級―偽物の種   敗北


 偶然にも敗北したのは1枚だけ。ドラゴンも倒してポイントを大量に稼いでいたのだ。


「マジかよ、最初のターンからこれか……」


 これによって両者のポイントは以下の通りになる。


 紗枝・・・・15ポイント

 萌乃花・・・19ポイント


 冒険者カードを1枚失ったものの、弱いE級のカードだから被害は最も少ないと言っても過言ではない。

 ミスからの運で優勢な状況を勝ち取った萌乃花。そんな彼女はたいそう喜んで――――――――。


「ふ、不幸ですぅ……」


 ――――――――いることは無かった。

 歓喜とは正反対に涙目で頭を抱え、不幸だ不幸だと呟く彼女。これには紗枝も困惑してしまい、事情を聞かずにはいられなかった。


「不幸ってどういう意味だよ、勝ってるだろ?」

「勝ったことは嬉しいですけど……見てください」


 そう言って萌乃花が差し出したデバイスには、まさに今この場所がライブ中継されている配信が映っていた。

 そこには数々のコメントが流れており、現在はほとんどが萌乃花の運を称えるものである。


「私は注目されるのが苦手なんです。見られてると思うと体に拒絶反応が……うぅ……」

「ちょ、大丈夫かよ」

「昔から不幸体質なんですよ。自分が嫌がることばかり起こっちゃうんです」

「つまり、この勝利も体質が引き寄せたと?」


 萌乃花がゆっくりと頷くと、紗枝は「少し待ってろ」と言って舞台袖へと駆けていく。

 数十秒して戻った彼女は、キャスター付きの半透明な壁を押してきた。テレビでモザイクの代わりに立てておくアレである。


「これがあれば少しはマシだろ」

「……こんなことしなければ、私はリタイアして勝てるんですよ?」

「ズルい手を使うことはあっても、そういう勝ち方は好きじゃない。アタイはアタイ自身の手で負けさせたいんだよ」

「紗枝さん……」


 じっと見つめてくる萌乃花の眼差しに、ふいっと照れたように顔を背けた彼女は、独り言のようにボソッと呟いた。


「……まあ、その体質も面白そうだしな?」

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