第261話
「そう、戦わせた魔力幻影にはクールタイムが発生するんだよ」
ニヤリと笑いながらそう告げる
「開示されていないルールを適用するなんておかしいくないですか?」
「そもそも、アタイはルール説明をする役じゃない。ボランティアで説明してやっただけだ」
「なっ?! そんな言い訳が通用するはずが……」
「それに口頭での説明はなかったが、ちゃんとクールタイムについてはお前の手に渡ってるだろ?」
その言葉に眉を八の字にした彼女は、ハッとしたように先程渡された自分のステータスの書かれた紙を取り出した。
表には自分の知っている情報しか書かれていなかったが、まさかと裏側を確認してみると確かにクールタイムについての記述があるではないか。
「なら、どうして初めに言わないんですか!」
「おいおい、笑わせるなよ。タロットで視えてるって言ったのはそっちだろ?」
「でも、あれは嘘で……」
「その紙を渡した段階では、まだ真実はハッキリしてなかった。アタイが何か間違ったこと言ってるか?」
少し角度を変えれば屁理屈にも正論にもなりうるそのセリフに、魅音も言葉に詰まって黙り込んでしまう。
「っ……ズルい」
「魔王が勇者のレベルに合わせたりするか? 挑戦を受ける側は挑戦する側に気を遣ったりしないんだよ」
「レジェンドと呼ばれるに相応しくない行為だとと思わないんですか」
「ゲームバランスって知らないのか? クールタイムが存在しなきゃ、A級以外を出す意味が無くなるだろ」
紗枝の口から発せられた「考えればわかる」という言葉に、魅音はあからさまに悔しげな声を漏らした。
「忠告したろ、直感を信じろって。つまり、自分の感覚以外は信じるなってことだ。勝負において相手を疑わないやつは弱い」
「くっ……」
【7ターン目開始時】
|―――|―――|―――|―――|
|1 |2🟦 |3🟥 |4🟦 |
|―――|―――|―――|―――|
|5 |6🟥 |7 |8 |
|―――|―――|―――|―――|
|9🟥 |10 |11🟦 |12🟥 |
|―――|―――|―――|―――|
|13 |14🟥 |15🟦 |16 |
|―――|―――|―――|―――|
「このターン、アタイは1番を選択する」
同じマスを選択した時は、『侵攻』とは別の形で魔力幻影同士を戦わせ、勝った方が陣地を獲得することになる。
A級がクールタイムに入った魅音に対し、紗枝はマスの効果でランクをひとつ下げられたとしても負けはありえない状態。
それでも魅音は足掻きとばかりにD級を出し、クールタイムを発生させた。
「ふっ、そう来ると思った」
これによって魅音の魔力幻影はA級とE級のみ、紗枝にはA級とC級とE級が残っている状態になる。
そしてクールタイムが【6-ランク差】で計算されるため、2ターン前にD級と戦った魅音のA級は残り1ターン、前のターンにC級と戦った紗枝のA級は3ターン使えない。
「このターンは侵攻しても負け確だな?」
「わかってますよ」
「左の列が空いてるな。取ってみたらどうだ?」
「余計な口を出さないでください」
魅音はそう文句を言いつつも、頭の中では確かにこのターンは罠を踏むしかないと分かっていた。
もしも自分も相手も侵攻をしたなら、E級を出すしかないために負けは必至。その後はA級同士のぶつけ合いでターンが消費されるだけになる。
そうならないようにするには、魅音も誘導をかけて相手にあの罠を踏ませるしかなかった。
「その手には引っかかりませんから。私は自分の罠を踏んでこのターンを乗り切ります」
そう宣言した彼女は8番のマスを選択する。紗枝は14番に侵攻し、防衛されることなくマスを奪った。
魅音が踏んだのは、ゲーム開始前に『相手が罠のない白マスをひとつ獲得する』という罠を設置したマス。
今現在、罠のない白マスは残っていないために効果は発動しない。……そう思い込んでいた。
「……え?」
自分にかかったデバフを見て、彼女は思わず言葉を失ってしまう。なぜなら、自分のでは無いものまで効果を発動していたから。
『現在自分が所持している幻影のうち、最もランクの高いものをゲームから排除する』
要するに、頼みの綱であったA級を失ってしまったのである。
彼女は全く予想していなかったのだ。『お互いに分からないように罠を設置する』ということが、『二重罠もありえる』という意味であることを。
「まあ、罠が被ってたってことは、罠の数から残りの白マスを予想できないってわけだな」
「ということは……」
冷や汗が背中を伝う感覚に視線をボード場へ向けた魅音は、白から青に色を変える7番マスを見て完全に戦意を消失するのであった。
「……参りました」
「潔いところは褒めてやるよ」
ズルと運を味方につけて勝利を掴んだ紗枝。その隙のないプレイスタイルに、
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