第259話
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ゲームは3ターン目まで順調に進み、お互いに3つずつ陣地をゲットしている。
今のところどちらも罠を踏んでいないため、4つずつ残したままだ。
「4ターン目に進む前にひとつ言いたいことがある」
その言葉で、タロットカードを触っていた魅音の手が止まる。
紗枝の視線はそのタロットを見つめており、次に出てくる言葉はまさにそれに対するものだった。
「これはゲームと言えど試合だろ。同時にマスを選ぶルール上、タロットをいじってる間は待たされてるんだよな」
「そう言われましても……」
「他の2つゲームには思考時間が設けられてる。でも、このゲームは直感で選ぶゲームだ」
「……つまり、タロットを使うなと?」
魅音の質問にゆっくりと頷く彼女。その目は試すような何かを含んでおり、まるで全てを見通しているかのような鋭さを感じる。
「ですが、占いの声を聞かなければ私は何も……」
「冗談はやめてくれよ。アタイが何も知らないとでも思ってるのか?」
にやりと笑った紗枝はイスから立ち上がると、魅音のタロットを1枚手に取って天井の明かりに透かした。
「対戦相手の情報は仕入れておく主義なんだ。タロットカードについても調べてみた」
「……それで何がわかったんですか?」
「その紙切れに予知能力はないってことだよ」
タロット占いというのは、基本的に悩みについての解決策や自分もしくは相手の深層心理を知るために行う。
ましてや魅音が行っていたワンオラクル、カード1枚だけで占う方法では、結果の善し悪しこそ知れても解決策を知ることは出来ない。
つまり、ゲーム開始前に『陣取りゲームをしている姿が視えた』と言い当てたのは、タロットの力ではないということだ。
「なら、どうやって言い当てたんだろうな?」
「……タロットを通して視たんです」
「もしタロットにその力があってもお前には無理だ」
紗枝はそう言いながらポケットに入っていた紙を取り出すと、それを机の上に置く。
そこに書かれてあるのは魅音のステータスで、そのうちの一つだけに赤色のペンで印がつけてあった。
「現実主義ってのがマイナス数値として入ってる」
「それがどうしたって言うんですか」
「そんなやつが信憑性の欠片もないタロット占いを信じるか? アタイでも信じないぞ」
「っ……」
魅音の表情に焦りが見えてくる。紗枝はそこを畳み掛けるように、自分の推論を正面からぶつける。
「アタイ、前に卒業した先輩から聞いたことがあるんだ。『言いたいことがまとまらない時は、別の話で遠回りしてる間にまとめろ』ってな」
「……?」
「要はタロット占いをしているように見せかけて、考える時間を稼いでるだけなんだろ?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
「なら、自分自身を占って見せてくれよ」
そう言われて微かに震える手でカードを混ぜ、その中から1枚を抜き出す魅音。
そこに描かれていたのは『悪魔』だ。しかし、カードの上下が反対になっている。
「その意味は?」
「えっと……確か……」
「堕落や破滅」
「そ、それです!」
彼女が頷いたのを見て、紗枝は「やっぱりな」と笑った。確かに悪魔のカードには『誘惑、堕落、裏切り、破滅、依存』という意味があるのは間違いない。
しかし、タロットカードが使えると言っている人が、これを知らないはずは無いのだ。
「逆になっていなければ、だけどな」
「え?」
「逆さまだと意味は別のものになる。それくらい知ってるのが当然じゃないのか?」
「偶然忘れてただけで……」
「ならそのカードの意味を答えてみろよ」
その言葉に逆悪魔を見つめたまま頭を抱えてしまった魅音に、ため息をこぼした紗枝は仕方なく答えを教えてあげることにする。
「『解放』だ、今のお前へのお告げだな」
「お告げ?」
「タロットばっかり見てたら、周りの人間がどんな顔してるか分からないだろ。タロット自身が言ってるんだ、タロットから解放されろって」
「で、でも!」
「カードよりアタイの表情を見ろ。相手の動作1つから心理を読み取れ。これはそういうゲームだ、嫌なら戦う資格がないだけだ」
それは様々なゲームを極め、多くのもの頂点に立った者の言葉。込められた意思は重く魅音にのしかかり、やがてその手から紙切れを捨てさせた。
「思考なんて捨てろ、全力になるだけでいい」
「……わかりました、私の直感を信じます」
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