第257話

「久しぶり……って、そんな久しくもないか」


 そう言って笑いつつ煙の中から姿を現したのは、僕も印象に残っている黒と金のコントラストヘアーだった。


「プリンちゃんだったんだ、レジェンドって」

「だからプリンって呼ぶな。名前で呼べよ!」

「ごめん、紗枝さえ


 萌乃香ものかが「お、お知り合いなんですか?!」と驚く中、タロットカード好きの魅音みおん先輩と茶柱さばしら会長は分かっていたかのようにクスリと笑う。


「やはり、その少年が残ったのも運命なのですね」

「ああ。もちろん紺野こんの、お前が残ったのもな」

「ふふふ♪ そこは言わずもがな、ですよ」


 傍から聞いている僕には2人が何を言っているのかはわからなかったけれど、とりあえず会長がズルい手を使って自分を残らせた訳では無いらしい。

 つまり、ここで紗枝と対戦するのも運命。すごく面白そうな展開になってきた気がするよ。


「最初の対戦者を選……」

山吹やまぶき 紗枝さえ、そう焦るな。まずはこいつらにルールを説明してやる時間が必要だ」

「それもそうか。じゃあ、アタイが教えてやんよ」


 紗枝はそう言って舞台縁に腰を下ろすと、足をブラブラとさせながら決勝進出者3人を順番に指差す。

 そして「デッキと支援者カードを分けてくれ」と全員に支持した。


「これからの三試合、アタイは全員と違うゲームをする。その支援者カードを使ってな」

「その他のデッキはいらないってこと?」

「ああ、先生の言う通りだ。普通にデュエルしても、こっちが勝つのは決まってるからな」


 彼女が言うには、あのデュエルを一番最初に遊んだのも、一番多く遊んだのも自分なんだとか。


「あの日、正直先生に会ってびっくりした。今思えば、学校見学なんて嘘がよく出てくれたよな」

「え、もしかしてあの日来てたのって……」

「ああ、このゲームのテスター兼ラスボス役を頼まれたんだ。学園長直々にな」


 確かに学校見学にしては時期やタイミングがおかしいとは思った。ただ、あまりにも平然と言っていたから疑いもしなかったのだ。


「だから、今回は学園長が用意したゲームをプレイすることにする。アタイもルールを聞いたのはついさっきだ」


 紗枝がそう言いながら舞台袖を振り向くと、学園長の秘書さんがホワイトボードを持ってきてくれた。

 僕たちにもわかりやすいように、あそこに大事なことを書いてくれるのだろう。


「まずは1試合目、私はそこのタロットの姉ちゃんと戦う」

「先程、陣取りゲームをしている様子が視えました」

「……へえ、そのカードは飾りじゃないんだな」

「当たり前です。これは私のですから」


 その言葉を聞いて「面白いな」と嗤った彼女はスっと立ち上がると、後ろを振り返ってもホワイトボードに3つのゲーム名を書き始めた。


【エイリア魔女リティ】

【猟師と獲物】

【花より宝よりドラゴン】


「どれが陣取りゲームか、当てられるか? まあ、見ればわかるかもしれないけどな」

「タイトルしか分からないのですか」

「タロットで占えば中身も分かるんじゃないのか?」

「……そうですね。では、少し視てみます」


 魅音先輩はそう言ってタロットカードを広げると、目を閉じて何かをブツブツ言いながらカードをめくっていく。

 そして数十秒後にもう一度目を開けると、真っ直ぐにホワイトボードを指差しながら言った。


「一番上でお願いします」

「【エイリア魔女リティ】か。一応聞くけど、本当にこの陣取りゲームでいいのか?」

「……どういう意味ですか?」

「いや、気にしてないならいい」


 首を傾げる先輩に紗枝はゆっくりと首を振ると、「アタイからすれば好都合だからな」と言ってニヤリと笑った。

 僕がその表情の意味に気がつくのは、ゲームが始まって少ししてからになる。

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