第255話

 前回のターンエンド時に【マスターゴブリン】の効果で子ゴブリンがマスターゴブリンに進化したが、【メフィストフェレス】の効果で暫くは牽制が出来る。

 瑛斗えいとがそう思って手札を確認していると、奈々なながは【計画実行前夜】というゼロコストのカードを使用した。


【計画実行前夜】

 Eランク ゼロコスト

 自分と対戦相手はカードを2枚引く。


 この効果によってドローしたカードの中から彼女が追加で使用したのは、一進一退の戦況を大きく変えてしまうものだった。


【フランケンシュタイン】

 Bランク 6コスト

 攻撃力800/防御力500

『悪魔よ、おまえの仕事はすでに終わった』

 召喚時、相手の場にいる全ての幽霊・悪魔・憑依系カードを墓地へ送る。


 その効果によって【メフィストフェレス】は墓地へ送られ、【ファウスト】だけが場に残る。

 ファウストは本来普通の人間だ。つまり、悪魔の手助けを得られない今、道ずれの効果も発生しなくなってしまったということになる。


「じゃあ、マスターゴブリンでファウストとゴブリンを攻撃するよ」


 奈々がそう宣言すると、2体のマスターゴブリンが杖を振ってこちらのモンスターを全滅させてしまった。

 現ターンでの敗北は免れたものの、このままだと負けるのも時間の問題。何とかしてマスターゴブリンズを排除する必要がある。

 そんな奇跡レベルの戦略を思い描きつつ、勝ちを確信したように「ふふっ♪」と笑う奈々を見つめながらドローをする瑛斗。

 彼はそのカードを思わず2度見してしまった。


「……うん、いける。今から戦況をゼロに戻すよ」

「なっ?! そんなこと出来るわけ……」

「出来るカードがついさっき手に入ってたんだ」


 瑛斗が引いたのは、このゲームの始まる寸前に受け取ったS級の支援者カード。

 相も変わらずぶっ壊れ性能で、奈々からクレームを言われても仕方がないレベル。

 しかし、まるでこの状況のために生まれてきたカードかのようにぴったりな効果を持っていた。


【我らのアイドル 黄冬樹きふゆぎ ノエル】

 Sランク 6コスト

『冬担当ののえるたそだよ〜♪』

 敵モンスター2体を指定して凍結し、3ターン行動不能にする。何らかの方法で3ターン以内に凍結を解除できない場合、それらのモンスターは氷山(攻0/防500)に変化する。


 凍結の対象はマスターゴブリン2体。彼らは3ターンの間攻撃を行うことが出来ないどころか、いずれただの氷に変えられてしまう。

 しかし、瑛斗は気づいてしまった。先程、奈々が使った【計画実行前夜】の効果で引いた2枚のカードが、今すぐこのゲームを終わらせる力を持っていることに。


「奈々、悪いけど勝たせてもらうね」

「私のライフは3000残ってるんだよ? 1ターンで倒すなんてことが出来るわけ……」

「出来るよ。僕の支援者はチート級だらけだからさ」


【生徒会長 茶柱さばしら 咲優さゆ

 Sランク ゼロコスト 設置系

『働け、功労者は私が褒めてやろう』

 5枠のうち3枠を埋める代わりに、働かない(沈黙・凍結・睡眠状態)敵モンスターを三体無条件でゲームから排除する。そして残りの2枠に『一度限り召喚コスト免除&酔い止め』の効果を付与する。


 このカードによって、凍結されているマスターゴブリンが場から消える。そして特別な効果を得た自陣の二枠が黄金色に輝き始めた。

 そこへ召喚されるのが、またまたチート級のS級カード。ここで活躍してくれる支援者と言えば、やはり彼女しか居ない。


【ツンロリ 東條とうじょう 紅葉くれは

 Sランク 10コスト

『殺す、確実に殺して大阪湾に沈めてやる!』

 召喚時、敵モンスターもしくは対戦相手を選択してグーパンチを繰り出す。モンスターであれば破壊、対戦相手であれば750ダメージを与える。


 ガラスの中に出現した紅葉は、奈々を見つめながら左手のひらに右握り拳をぺちぺちと当てている。

 そんな彼女には、第2の能力というものがあった。


『逃げるんじゃないわ、戦略的撤退よ!』

 第2の能力。何らかの理由で召喚コストが下がった時に発動する。グーパンチが2回攻撃になる。グーパンチ終了後、このカードは手札に戻る。


 2つの能力に茶柱会長の枠効果が組み合わさったことで、このカードは最強となりえたのだ。

 コスト免除によって2回攻撃となったグーパンチが、奈々のライフを1500削る。

 その後、手札にトンボ帰りしたそれをもうひとつの枠に再召喚。もう一度連続グーパンチを発動してあっという間に勝利を掴んでしまった。


「よりによって紅葉先輩に負けるなんて……」

「さすが紅葉だね、やる時はやってくれる」

「勝てば一日命令出来るはずだったのに!」


 悔しがる奈々の様子に、ガラスの中の紅葉もドヤ顔をしている。こういうところの忠実性もしっかりしてるんだね。


「ちなみに何を命令したかったの?」

「……一緒に遊びに行きたいな、って」

「そんなこと? 命令されなくても喜んで行くよ」

「ほんと?!」

「当たり前でしょ、お兄ちゃんなんだから」


 瑛斗の言葉に飛び跳ねて喜ぶ彼女。こうして2人のデュエルは両者がハッピーエンドで幕を下ろすのであった。


「お兄ちゃんとホテル街散策するのが夢だったの!」

「……やっぱりやめとこうかな」

「男に二言はなしだよ!」

「じゃあ命令するね。約束を取り消して」

「あー! そういうのパワハラって言うんだよ!」


 その後、必殺『おめめうるうる攻撃』を受けてOKを出しかけたものの、何とか踏ん張って『連休に2人で旅行に行く』というところへ落ち着けたそうな。

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