第254話

【いつもまとめ役 加賀見 蓮二】

 Sランク 6コスト

『さあ、集まりやがれ!』

 場にいるゴブリン系モンスター1体ごとに、【子ゴブリン】を2体ずつ召喚する。

 もしも5枠全てが埋まり、尚且つ【ゴブリン兄貴】が場にいる場合のみ、溢れた【子ゴブリン】(三体)をかき集めて【ゴブリン兄貴】は【ゴブリン親分】、もしくは6体消費して【マスターゴブリン】に進化する。



 奈々ななが出した支援者カードはこれだった。その効果によって、4体のゴブリン系モンスターが存在している彼女の場には、合計8体の【子ゴブリン】が召喚された。

 余っている1枠を埋めた上で、溢れた7体のうち6体が【ゴブリン兄貴】の元へと集まり、グルグルと周囲を回り始める。そして。


「融合召喚だよ!」


 奈々の宣言とともに形態を変化させたソイツは、ゴブリンの中でも明らかに高ランクなモンスターなのだとわかる風格をしていた。



【マスターゴブリン】

 Aランク ゼロコスト

 攻撃力3000 防御力1500

 このモンスターは支援者の能力でのみ召喚可能。ターン終了時、他のゴブリン系モンスター1体に霊力を送り、マスターゴブリンを増やす。



 攻撃力が3000あるということは、つまりライフへ一撃与えるだけで勝ててしまう強キャラということ。

 まさに絶体絶命のピンチ。瑛斗えいとはこの状況に慌てて手札を見――――――――なかった。


「奈々、ひとつ聞いてもいい?」

「ん?」

「その支援者って2年C組のイケメンくんだよね?」


 彼が気にしているのは戦況よりも妹の支援者。

 昨日の放課後に準備をしているのを見かけたあのイケメンが、どうして奈々の支援者をやっているのかの方が兄として重要だった。


「そうだよ?」

「どっちから声掛けたの?」

「向こうから人が足りないからって言われて……」

「おかしいと思わなかった? A級の奈々にS級が声をかけてくるなんて」


 確かにA級からすれば、S級はポイント5倍になる相手。しかし、S級目線ではA級は1ポイントしか手に入らないのだ。

 つまり、わざわざ奈々に話しかけるメリットは何もないわけで――――――――――。


「奈々を狙ってるのかも。そうだとしたら危険だよ」

「そんなことはないと思うけど……」

「奈々、危ない男かそうじゃないのか見極めるんだよ。わからなければお兄ちゃんが手伝うから」

「私を心配してくれるのは嬉しいけど、今は戦況を心配してよ! いいカード出したのに台無しだよ!」

「あ、ごめん。つい心配になっちゃって……」


 紅葉くれは麗華れいかを見てわかる通り、S級=完璧な人間という訳では無い。危険な人だっているかもしれないのだ。

 瑛斗は心配する気持ちを胸の奥に押し込めると、心の中だけで『お兄ちゃんが守るから』と呟いて新たなカードをドローする。


「じゃあ、僕は今引いたのを出すよ」


 そう言ってカードをセットすると、ガラスの中にはキチッとしたスーツを着た男が現れる。そしてその直後、彼のすぐ隣に幼い少女が出現した。



【飽くなき欲望 ファウスト】

 Aランク 7コスト

 攻撃力700/防御力1500

『悪魔でもこの私を満足させることは出来ない』

 召喚時、【メフィストフェレス】を追加召喚し、ファウストが墓地へ送られるまでの間、毎ターン開始時何らかの効果を発生させる。


【メフィストフェレス】

 Aランク ゼロコスト 憑依系

 このカードは攻撃力と防御力を持たず、【ファウスト】が破壊された時、自分、もしくは相手の場のモンスター1体を選択し、場にいる対象と同じ種族のカードを全て道ずれにして墓地へと送られる。



「モンスターを破壊しないとライフに攻撃できない以上、僕はマスターゴブリンを道ずれにするよ」

「っ……お兄ちゃん、なかなかやるね」


 2人は微笑みながらも、その瞳の中には互いの手の内を見透かさんとする意思が垣間見えていた。

 戦況はモンスターの数で奈々がリードしているが、ファウストの効果によってライフが回復したことで、いくらでもひっくり返せる僅差となる。


「絶対に負けないよ!」

「僕こそ負けるつもりは無いよ」


 この試合、既に自分たちの戦いを終えて観客となった者たちでさえ、生唾を飲むような緊迫感があった。

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