第253話

「もう残り13人か。次がこのゲームのラストだ」


 ようやく放送室からではなく実物として舞台の上からそう口にした会長は、勝ち残っている生徒たちを見回しながらふっと笑う。

 この場に紅葉くれはとノエルはもう居ない。先程のゲームで負けてしまったのだ。


「今から10秒以内に2人組を作れ」


 彼女の言葉に困惑している暇はなく、口頭でカウントダウンされ始めると皆近くの者に話しかけた。

 こういうのは得意ではない瑛斗えいとが困っていると、後ろから寄ってきた人物に肩を叩かれる。


「お兄ちゃん、私と組んで欲しいな」

奈々なな、まだ残ってたんだ?」

「運が良かっただけだけどね」


 奈々だ。会長に遮られたせいで組無ことが出来なくてから心配していたけれど、無事にここまで勝ち上がってきていたらしい。

 瑛斗がほっと胸を撫で下ろすと同時に、会長が「ゼロだ」と制限時間終了を告げた。


「悪いがそこの余った1人は失格とする」

「そ、そんな……」

「今回の文化祭はコミュニケーションを大事にしている。あぶれるやつが落とされるのは当たり前だ」


 少々強引な人数調整に悔しそうな表情で去っていく男子生徒。瑛斗は彼の気持ちがわかるのか、自分の事のように苦い顔でその背中を眺めていた。


「兄妹で組んだやつもいるようだが……まあいい。最後は組んだ相手と戦ってもらう」


 つまり、瑛斗は奈々と勝負するということ。兄妹で仲良くゲームという見方もできるが、彼には記憶の中の妹に少し心配があった。


「奈々、ゲームで負けたら不機嫌になっちゃうからなぁ」

「いつの話?! 私もうそんな子供じゃないもん!」

「ほんと?」

「ほんとだから! 小学生の時の話なんてしないでよ……」


 周りに聞かれて恥ずかしいのか、顔を赤くしながらブツブツと文句を言う彼女。

 瑛斗は「でも、わがままな奈々も可愛かったよ」と言うと、更に耳まで赤くしてしまった。


「お兄ちゃんのバカ……」


 そう呟いてぷいっと顔を背けると、先に割り当てられた机へと向かう奈々。

 彼がすぐにそれを追いかけてイスに腰を下ろすと、彼女はデッキを投入しながら言った。


「昔みたいにあっさり負けたりしないからね」

「うん、わかってるよ」

「それと勝った方が1日命令出来る権利をゲットってことで!」

「危険な匂いがするけど大丈夫?」

「大丈夫だよ!」


 妹に「早く早く!」と急かされてデッキをセットする瑛斗。奈々はきっと命令権を使ってよからぬ事を企んでいるのだろう。

 それを察した彼は何がなんでも勝たなければならないと、初期手札を受け取った手に力を込めた。


「全員準備できたな、始めてくれ」


 会長の合図で手札から顔を上げた瑛斗は、奈々の「先攻は譲るね」という言葉に頷いて、早速ゴブリンを召喚するのだった。

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 それから5ターン目が終わって、奈々の戦法が垣間見えてきた。

 彼女はランクが低い支援者ばかりを持っているものの、それらが継続回復や防御系なのだ。

 それ故に瑛斗がライフを削っても回復され、ゴブリン同士の殴り合いではダメージを軽減して守る。

 単純な戦い方ではあるものの、序盤の傷はすぐに癒されてしまうため、後半に一気にダメージを与えて削り切るしか無かった。


「【銭袋オバケ】でゴブリンを攻撃するよ」


 ここは難なく一体破壊出来たものの、こちらの手札の引きが悪いせいで奈々の場には4体のモンスターが残っている。

 あまり強くないゴブリン系ばかりなのが不幸中の幸いだ。そんなことを思っていると、彼女は新たにドローしたカードを見て頬を緩める。


「お兄ちゃん、支援者カードを使うね!」


 そう宣言してから場に出されたカード。瑛斗はそれによって大いに追い詰められることになるのであった。

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