第251話

 カナとの決着が着いた後、すぐに2回戦は終了して再度勝者だけが集められた。

 100人から50人に絞られ、25人まで減った今の状況。瑛斗えいとが、2人で組むと1人だけ余るなぁ……なんて思っていると、デバイスにまた茶柱さばしら会長が映し出される。


『ここまで勝ち残ったお前らは運がいいのか、それとも実力があるのか。それは分からないが次のゲームに進む前にひとつ知らせがある』


 にんまりと笑った会長が『狭間はざま 瑛斗えいと』と名指しすると、隣にいた紅葉くれはがこちらを見上げた。

 それに釣られるようにして、周囲の生徒も一斉に彼の方を振り向いてくる。


『人数が奇数になったろ。だから、ポイント合計が1位だったお前には、特別な対戦相手を紹介してやる』


 その言葉と同時に、体育館のステージ脇から登場した人物。彼は堂々と階段を降りてくると、瑛斗の目の前で足を止めてにっこりと笑う。


「ジャ〇プで言うところの、最凶の敵のお出ましってところかな?」

「……学園長」


 学園長と言えば、このゲームを作った張本人。つまりはルールの全てを把握している存在。普通に戦って勝てる相手だとは思えなかった。


「さあ、ゲームを楽しもうじゃないか」


 クククと気味の悪い笑い方をする強敵を前に、今回ばかりは瑛斗も負けを確信していた。

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 勝負は順調に3ターン目までを終え、瑛斗は相手陣地に設置されているゴブリンを見てほっと胸を撫で下ろす。

 今のところは特に異常なカードが出されたりはしておらず、僅かながら自分の方が優勢だからだ。

 しかし、次の4ターン目。ついに平穏な戦況に荒波が立ち始めることになる。


「そろそろ本気を出そうか」


 そう言ってニヤリと口元を歪めた学園長は、場の中央にいるゴブリンの上に重ねるようにしてカードを置いた。


【悪魔王ソロモンの指輪】

 Sランク コスト3 学園長専用

 このカードは、自分の場に1体以上のモンスターが存在する時のみ使用可能。いずれかのモンスターに重ねることで対象にソロモンの魂を宿し、他の4枠に72柱の内ランダムな悪魔を召喚する。


 まだゲーム中盤に差し掛かる前にして出されたのが、明らかにコスト設定を失敗しているチートカード。

 その効果によりソロモンの力を得たゴブリンは、やや困惑しながら呼び出した4人の悪魔を跪かせた。


【バエル】

 序列1位 階級『王』

 攻撃力2750/防御力2500

 別名|バアル・ゼブル。本来は嵐と雷雨、山岳の神で、慈雨により豊饒をもたらす鎧を纏った最高神とされていた。しかし、宗教差別によって邪神という扱いを受けるようになり、現代ではベルゼブブという名と巨大なハエの姿が定着している。


【パイモン】

 序列9位 階級『王』

 攻撃力3000/防御力1500

 王冠を被った女顔の男性の姿をしている。召喚されてから延々と大声で怒鳴り続けるが、威嚇し続けると大人しくなる意外と気の弱い悪魔。ただ、元主天使なだけにその力は計り知れない。


【アスモデウス】

 序列32位 階級『王』

 攻撃力3500/防御力2500

 72柱の中で唯一ソロモン王に抗うことが出来た悪魔。しかし、その一件のせいで魚の内蔵が苦手になった。色慾しきよくを司っているものの、彼が取り憑いたサラという少女には一度も手を出さなかったという一面もある。


【ザガン】

 序列61位 階級『王・総裁』

 攻撃力2500/防御力1500

 召喚するとまずグリフォンの翼を持つ牡牛の姿で現われ、しばらくすると人の姿になる。全ての金属を対応する金属製の硬貨に変える能力と、血を水・油・ワインに変化させる能力を持つ。


 異形もいれば人型の者もいるおぞましい光景は、その中に佇むゴブリンが可愛く見えるほど。

 しかし、これではまだ終わらない。ソロモンの指輪には特殊条件下で発生するもうひとつの能力があるのだ。


「今日のボクはツイてるね。階級が王の悪魔が4体いる時、新たな悪魔を融合召喚することが出来るようになるのだよ」


 学園長の言葉が終わるが早いか、4体の悪魔はゴブリンを押しのけて中央でぶつかり合うと、やがて4つの赤い紋章へと変わり、互いに重なり合う。

 そして巨大で複雑になった魔法陣が扉のように開くと、その奥の闇からダンゴムシが突然変異したようなモンスターが這い出てきた。


【不残の悪魔 ミシャンドラ】

 ??ランク ゼロコスト

 攻撃力???/防御力???

 ソロモン72柱の内、73番目の悪魔。14本の蛙の足、七つの赤眼のついた山羊頭、鳥の体を持つ黄金の蜘蛛。他のどの72柱をも凌ぐ力を持っている。

 召喚者は呪いによって彼の存在を書物に書き残すことが出来ず、現代まで欧米の上流階級が口伝で語り継いできたと言われている。


「ミシャンドラの通った後には何も残らない。もちろん君のライフもだよ」


 瑛斗は「必死に抗うがいい」と余裕そうに足を組んでターンエンドを宣言する学園長を前に、もはや諦めしか感じることが出来なかった。

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