第250話

【9ターン目終了時の残りライフ】

 狭間はざま 1000

 黒木くろき 1900


 瑛斗えいとがひっくり返したカードの裏側、そこには別の絵が―――――――――――。


「……あれ?」


 描かれてはいなかった。

 他のカードと同じ、ただただ黒くて何も無いだけの面。確かに効果には『ひっくり返す』と書いてあったはずなのに。

 彼がそう困惑しながらカードから手を離した瞬間、突然机から十円玉が飛び出してくる。


「まさか、これがひっくり返し効果?」


 十円玉1枚が手に入るなんて効果、ピッタリ出せないのに自販機が釣り銭切れになった時くらいしか喜べないよ。

 そんなことを思いつつ首を傾げていると、机に『擦れ』という指示が表示された。


「擦れってカードのこと?」


 理解は追いついていないものの、言われるがまま十円玉でカードの裏面をゴシゴシと擦ってみる。すると、黒い部分がめくれて下に文字が見えてきた。

 このカードの裏面、スクラッチくじと同じ仕組みになっていたのである。


「って、結構擦るの疲れるね」

「先輩、切り札なんだしかっこよく決めて欲しかったなぁ〜」

「文句なら学園長に言ってよ」


 それから3分程ゴシゴシとやり続け、机に『まだ端の方に残ってる』『ゴミはゴミ箱へ』と注意された結果、カードが認証を許されたのはそれからさらに3分が過ぎた頃だった。


『ちなみに、擦らなくても端っこからフィルムごと剥がせば2秒で認証可能』

「あ、ほんとだ」

『学園長からの伝言。若いうちから脳みそは使っていかないといけないね、とのこと』


 無性にイラッとするけれど、今はゲームの途中だから一旦忘れることにしておく。

 瑛斗はとりあえずフィルムを綺麗に剥がし、それからカードの効果に目を落とした。


【本当の自分へ 白銀しろかね 麗華れいか

 Sランク ゼロコスト

 このカードの効果は、自分の場にモンスターが1体以上いる場合のみ発動する。

『自分のための幸せ』

 自分の場のモンスター全てを敵の場へ移動する。その後、特殊モンスターカード【白銀 麗華】を召喚する。


「え?」


 カードの効果によって、悪魔もゴーレムも、銭袋オバケまでもが柳〇慎吾のように『あばよ!』とやって敵陣地へと移動してしまった。

 このままでは自分に不利なだけになる。そこで活躍するのが、モンスターたちの代わりに登場した特殊モンスターなのだ。


【白銀 麗華】

 Sランク ゼロコスト

 攻撃力0/防御力0

『私の名前は白銀 麗華です!』

 敵の場にあるカードの名前を【ミニ麗華】に変える。何があっても元に戻ることは無い。


 ガラスの中の麗華がカナの陣地にいるモンスター達を順番に指差すと、彼らの頭の上にさらに小さな麗華がクルクルと回り始める。

 同時にカードの名前と効果も書き換えられ、『特異カード』と呼ばれる麗華の支援者カードでしか出現させられないものへと変化した。


【ミニ麗華】

 特異カード

 このモンスターの攻撃は【白銀 麗華】のみにしか行われない。攻撃がヒットした際、対象にはダメージの代わりに以下の効果を発動する。


 ・状態『怒り』を付与する

 ・対象に自身の攻撃力と防御力の値を加算する

 ・元のモンスターの持つ能力を付与する

 ・元のモンスターと同じ種族になる


 尚、このカードは次のターン開始時、いかなる状態でも強制的に【白銀 麗華】を攻撃した後、状態『沈黙』となって3ターン後に墓地へ送られる。



「『怒り』状態のモンスターは、攻撃される度に次回与えるダメージが1.5倍されるらしいよ」

「ということは……?」


 瑛斗がターンエンドを宣言した途端、悪魔とゴーレム、2体の銭袋オバケが麗華目掛けて飛びかかった。

 しかし、その攻撃はその体に触れる寸前でピタリ止まり、彼女がモンスター達の体から何かを抜き取った瞬間、彼らは相手陣地へと弾き飛ばされて動かなくなってしまう。


【白銀 麗華】

 Sランク コストゼロ 速攻(付与)

 攻撃力1900/防御力2800

 人型/ゴーレム/悪魔/宝/幽霊/族

『ヤヌシ、カエルマデ、マモル(付与)』

 この能力は召喚時、自分の場にゴーレム系カードしかない場合のみに発動する。現在自分の場にいる全てのモンスターの防御力を2倍にする。


 防御力はゴーレム族となった麗華一人のみのため5600に上昇。

 そして状態『怒り』付与後、3体からの攻撃を受けている彼女の攻撃力は――――――――6412。


「やっぱりすごいね、S級って」

「そうだね。ここまで先輩を助けられるんだから、白銀先輩はさすがだよ」


 カナはそう言って満足げにため息をついた後、手札をそっと机の上に置いてにっこりと微笑んだ。


「ボクも瑛斗先輩を助ける切り札になりたい」


 それはつまり、遠回しな敗北宣言だった。

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