第249話

【8ターン目終了時の残りライフ】

 狭間 1000

 黒木 2900


 カナの場には攻撃力1000となった【針地獄を見張る悪魔】が居て、瑛斗えいとの場には使い物にならない【レンガ造りの守衛人形ゴーレム】のみ。

 攻撃されれば終わりのこの状況をひっくり返すには、何とかモンスターを出して時間稼ぎをしなければならなかった。


「先輩、いいことを教えてあげよっか?」

「いいことって?」

「そっちからすれば悪いことだけどね」


 彼女はそう言って微笑むと、手札から1枚を抜き取ってこちらへと放り投げる。

 それを受け取った瑛斗はカードに目を落とし、直後にカナの余裕の表情の真意を理解した。


【ゲイ・ボルグ】


 彼自身も先程の対戦で使用した能力『貫通』を付与する人型専用の武器カードである。

 場のモンスターには悪魔という名が付けられているものの、その姿はバイ〇ンマンのような人型。つまり、これの意味するところは――――――――。


「次のターンで貫通を付与させたら、いくらモンスターを出しても無意味だよね〜♪」


 確実に次で殺せるぞ、ということ。

 ちなみに、武器の重複制限は無いため、新たな武器を持たせても以前の効果が消えることは無い。要するに、このターンで何とかしなければ敗北は必至。


「そうだ、まだサイコロを振ってないんだ」


 手札に集中しすぎて忘れるところだった。あくまでこの効果は『振ることが』であるため、うっかりしていた場合は振らないという選択をしたことになってしまうのである。


「サイコロひとつで状況が変わるかな?」

「分からない。でも、やらないよりマシだよ」


 前ターンで回復効果が相手に出たという失敗がある以上、自分に有利に働くと限らないことは分かった。

 けれど、抗う手段を持っていながら諦めてしまうことは、彼にとって自分を見捨てるのと同義なのだ。


「いいの? 『1』の効果も分からないのに」

「分からないからこそ振れるんだよ、僕はこのカードが味方してくれるって信じてる」


 心を揺さぶりに来たカナの言葉を跳ね除け、瑛斗はサイコロを握りしめる。

 回復をしたところで、攻撃されれば同じ状況に戻るだけ。その点、悪魔を墓地へ送ることが出来れば、しばらくの時間稼ぎにはなる。

 6分の3、半分の確率でそれが可能なのだ。恐れる理由なんてどこにもない。

 彼は心の中で自分に言い聞かせるように何度も唱えると、思い切ってサイコロを投げた。


「……」

「……」


 二人の見守る中、キューブはカタカタと音を立てながら転がってガラスにぶつかり、跳ね返ったところでピタリと動きを止める。

 その瞬間、上に向いていた目の数を確認すると同時に、彼らは互いに息を飲んだ。


『1』


 天の導きか、悪魔の数字か。その答えは机上に表示されたダイス効果によって明らかとなった。



 ・出目が1の場合

『上辺だけの友達なんて必要ない、ですよね?』

 敵モンスター1体を指名して自陣に引き込む。以降、対象のモンスターは破壊されるまで自分のモンスターとして扱える



「なっ?! ぶっ壊れカードじゃないですか!」


 カナも敬語が出るほど、紛れもなくゲームバランスのゲの字もないほどの異常さ。

 それでもこのゲームは市販品ではない。学園長の好みが詰まったものであることを理解していれば、この一言で全て片付いた。


「この学園でS級が強いのは当たり前だよ」

「た、確かに……」


 彼女が納得したのを感知したように、敵陣地にいた悪魔が瑛斗側へと移動してくる。

 これでダイスの効果は全て使い果たしたが、十二分過ぎるほどの収穫だった。


「手札からコスト3の【銭袋オバケ】(攻300/防200)を2体召喚。続いて悪魔でカナのライフを攻撃」

「こ、これはさすがに痛いなぁ〜」


 つい数分前まで勝ちが確定していたも同然だった彼女は、5枠とも埋まった敵陣地を見て苦笑いをする。

 S級であるが故に複雑な気持ちなのだろう、同じくS級の支援者カードに追い詰められるということが。


「僕の追撃はまだ終わらないよ」


 瑛斗はそう言いながら【勝つためには手段を選ばない 白銀 麗子】に視線を落とす。

 これで3ターンが経過したことになるのだ。きっとここからがこのカードの本領発揮の時間に違いない。

 そうまだ見ぬ力に胸を躍らせながら、彼はターンエンド宣言と同時にカードをひっくり返した。


【9ターン目終了時の残りライフ】

 狭間はざま 1000

 黒木くろき 1900

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