第248話

 デュエル序盤は特に変わりなく、互いに弱いモンスターを出し合っては破壊し合った。

 カナもきっと切り札カードを使うために、タイミングを見計らっているところなのだろう。


【5ターン目終了時の残りライフ】

 狭間はざま 2000

 黒木くろき 1900


 両者一進一退と言ったところで、特筆すべきことは何も起きていない。

 今回はコストをほとんど無駄にしていないし、マドモアゼルの効果を使うことは出来ないから、他の手を見つけないとね。

 そんなことを思いながら、瑛斗えいとは手札から選んだ1枚を盤面にセットした。


【レンガ造りの守衛人形ゴーレム

 Cランク 6コスト

 かつて狼の襲撃から子豚を守ったと言われる家の成れの果て。家主の死から数十年間放置され、やがて意思を持つようになった。今も思い出を抱えたまま徘徊している。

 攻撃力300/防御力1500

『ヤヌシ、カエルマデ、マモル』

 この能力は召喚時、自分の場にゴーレム系カードしかない場合のみに発動する。現在自分の場にいる全てのモンスターの防御力を2倍にする。


「今は他にモンスターがいないから、防御力は2倍に上がるよ」

「なるほど、そう来るか〜♪」


 カナは後頭部に手を当てながらしまったという顔をしつつ、「ターンエンド?」と聞いてきた。

 その瞬間、彼が自分の選択に不安を覚えたことは言うまでもない。そこそこ強いモンスターを出したと言うのに、カナがあまり焦っていないのである。


「ターンエンドだよ」

「じゃあ、私のターンだね。これらを召喚する!」


 彼……いや、今は彼女ということにしておこう。彼女が盤面に置いたカードを見た瑛斗は、思わず苦虫を噛んだような顔をした。


【ポーカーフェイス 黄冬樹きふゆぎ イヴ】

 Eランク ALLコスト

 攻撃力200/防御力200

『…………』

 敵のカード1枚を指定し、対象に状態『沈黙』を付与する。尚、このカード召喚時には残りコストを全て消費する。消費したコスト数だけ効果が継続する。


 状態『沈黙』とは、付与されている間は攻撃や能力の発動などが制限され、プレイヤーのライフへの攻撃の防御も出来なくなる効果のこと。

 カナが消費したコストは6、つまり次のターンから6ターンの間はこのゴーレムが独活うどの大木と化すというわけだ。


「危険な敵は黙らせておかないと、ね?」

「なかなかやるね」

「ふふ、先輩はどう出るかな〜♪」


 カナはこちらを見ながら楽しそうに笑っている。勝ちに拘っているという雰囲気は一切感じられず、純粋にこの戦いを楽しんでいるようだった。

 ならば、自分も彼女に負けないくらい全力でエンジョイしなければならない。

 瑛斗は力の入りすぎている肩を軽く回すと、深呼吸をしてからカードをドローした。


「いいカード引けたかな〜?」

「そうだね、引けたよ」

「それは楽しみだな〜♪」

「これはカナの期待を裏切らないと思う」


 そう言って彼が出したのは、対戦前に確認していた【勝つためには手段を選ばない 白銀しろかね 麗子れいこ】である。

 このカードの効果によってガラスの中に出現した麗子は、向かい側でボーッとしているイヴを見つめた。

 瑛斗は机から排出されたサイコロを手に取ると、それを適当に転がしてみる。


「出目は『4』だからイヴを指名して墓地に送るよ」

「さすがSランク、理不尽なほど強いなぁ〜」

「この効果があと2ターン続くもんね」

「それでこそ、戦いがいがあるってもんだよ♪」


 これ以上は何も出来ないのでターンエンド。

 続くカナのターンでは、速攻持ちの【針地獄を見張る悪魔】(攻700/防400)に武器カード【三叉槍トリアイナ】(攻+300)を付与して攻撃。

 サイコロでは『3』が出るも、ランダム抽選によって回復されたのはカナのライフで、瑛斗は絶体絶命の状態陥ってしまった。


【8ターン目終了時の残りライフ】

 狭間 1000

 黒木 2900

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