第246話

 机から吐き出されたドローカードを手札に加えた瑛斗えいとは、その説明文にじっくりと目を通す。

 まずは盤面にいるテラルクスを倒さなければ、ルール上斎藤さいとうくんのライフへの直接攻撃はできない。


「降参という手もありますよ」

「いいや、もう少し待って」


 テラルクスの3体同時攻撃がある以上、防御力2500以上のモンスターを一体配置するだけでは意味が無い。

 モンスターを三体配置してライフへのアタックを阻止するか、もしくは2500以上の攻撃力と【速攻】の能力を持ち合わせたモンスターで破壊するかの二択だ。


「でも、モンスターが足りな――――――――ん?」


 もう無理だと諦めようと思った瞬間、瑛斗はチラッと視界に写った文字に目を引かれる。


【廃棄コスト】


 このゲームには、『前ターンで余ったコストは、ターン開始時に廃棄してから全回復する』というルールがあるのだ。

 あの説明に何の意味があるのか分からなかったけれど、今ドローしたこのカードの強さを理解した今ならはっきりとわかる。


「僕は最後まで引きが良かったみたいだね」

「テラルクスを倒せると言うのですか?!」

「違うよ、倒さずに勝つ方法が見つかったんだ」


 彼がそう言って机に置いたカードは、一見するとごく平凡なモンスターカード。しかし、特殊な状況かにおいてその真価をはっきするのだ。


【空き缶拾いのマドモアゼル】

 Eランク 3コスト

 攻撃力100/防御力300 速攻

『ごみ拾いは足腰の健康にいいのよぉ♥』

 この能力は5ターン目以降にのみ発動可能。

 召喚時、このゲーム中に廃棄したコストの合計が10以上ならば、以下の効果を獲得する。


 ・攻撃力に廃棄したコスト数を掛け、その数値を新たな攻撃力とする。

 ・ターンエンド時、このモンスターは300のダメージを受ける。


「条件付きで強化されるモンスター?!」

「そう。僕が廃棄したコストは、3ターン目に2つ、その後のターンでは全てのコストを廃棄してる」

「今が7ターン目ですから、その合計は……」

「17個だね」


 つまり、攻撃力は元の100に17を掛けることの1700になるというわけだ。

 しかし、これでは防御力2500のテラルクスに攻撃をしても、返り討ちで破壊されてしまうだけになる。

 たとえ攻撃せずに放置しても、マドモアゼルは300のダメージを受けて墓地へ送られてしまう。そんな無駄なことをするはずがない。


「そこで、この武器カードを召喚して【空き缶拾いのマドモアゼル】に装備させる」


【ゲイ・ボルグ】

 Cランク 4コスト 武器カード

 クー・フーリンが手にしたとされる伝説の槍。投げれば30の矢となって降り注ぎ、突けば30の棘となって破裂すると言われている。

 人型のモンスターにのみ装備可能。

 対象に能力『貫通』を付与する。


 『貫通』とは、場にいる相手のモンスターを攻撃した時、対象のモンスターを貫いて敵プレイヤーのライフにも攻撃判定が付くというもの。


「この状態でテラルクスを攻撃するよ」

「と、ということは……」

「テラルクスにゼロダメージ、斎藤くんのライフに1700ダメージ」


 マドモアゼルが缶を拾うために持っていたトングを投げると、それは無数に分裂して双翼の少女を襲う。

 テラルクスは剣で攻撃を弾くが、すり抜けたトングはガラスの檻を飛び出して机上を走り、彼のライフを直接削った。


「君のライフはゼロになった。僕の勝ちだね」

「まさか、ここで負けるとは……」

「少しばかり運がこちらに味方しただけだよ」

「……ふふ、やっぱり本を読んで勉強しても勝てるわけじゃないんですね」

「基礎は大事だけれど、経験には勝らないかな」


 ようやく肩が温まってきたらしい。子供の頃にカードゲームをやり込んでいた瑛斗は、カードチョイスをするための脳回路を既に持っているのだ。

 今回は危なかったが、何とか再起動が間に合ってくれたようでよかった。マドモアゼルには感謝しないといけない。


『今、ちょうど半数が勝負を終えたようです。終わった方はもう少し待っていてくださいね』

『まだのやつは焦る必要は無い。いずれどちらかが負ける、今をゆっくりと楽しめ』


 デバイスから聞こえてくる声を聞いた瑛斗は、斎藤くんと支援者カードを見せあって時間を潰すことにしたのであった。

 初戦の前はあまり時間がなかったけれど、次の対戦相手とぶつかる前にデッキ内容をしっかり見ておかないとね。

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