第245話

 このデュエルでは、モンスター召喚時に所持しているコストをカードに書かれている分だけ消費することになっている。

 コスト数は現ターン数の数字と同じで、自分のターンになった時に全回復する仕組みだ。

 最大コストは10。つまり10ターン目まではターン数が増えるごとに前ターンの最大値よりも1増えた状態で始まり、10ターン以降はずっと同じコスト数でターンを開始するということ。


「とりあえずこれかな」


 最初のターンでは1コストしか使えないため、瑛斗えいとは手札にあったゴブリン(攻100/防50)を召喚しておいた。

 他のカードゲームと同様に、召喚酔いといって『モンスターは召喚されたターンに攻撃できない』仕組みになっているため、これでターンエンドにする。


「こちらは出せるカードがありませんね」


 対戦相手の斎藤さいとうくんはそう言って、ドローから僅か3秒でターンエンド。

 手札にコストの高いモンスターばかり集まってしまったのだろう。カードゲームには運もありきだから、こればかりは仕方ない。


「じゃあ、今度はこれを出すよ」


 瑛斗が召喚したのは、コスト2のゴブリン兄貴(攻200/防100)。このカードの効果で2体の子ゴブリン(攻50/防0)が召喚され、場は4つ埋まる。


「1ターン目に出したゴブリンでライフを攻撃。ターンエンド」

「引きがいいみたいですね」

「今のところはね」


 その後、5ターン目まで斎藤くんは何も出すことなく、ゴブリン系カードで盤面が埋まった瑛斗はただただライフを削り続けていた。

 そして彼が動き出したのは、瑛斗が6度目のターンエンドを宣言した瞬間だった。


【残りライフ】

 狭間 3000

 斎藤 1000


「使わせてもらいますね、僕の支援者」


 斎藤くんはそう言うと、『支援者カード』と呼ばれる写真の付いた特殊なカードを盤面に出す。

 すると、ガラスの中にボクシンググローブをつけてサンドバッグを殴っている男子生徒の姿が現れた。


【ボクシングジム通い 瀬戸せと 涼也りょうや

 Cランク 6コスト

『追い詰められてこそフルパワーっしょ!』

 このカードは効果発動後、墓地へ送られる。

 対戦相手の攻撃によって減少したライフ÷100のコストを即座に獲得し、手札からモンスターを2体選んで召喚する。それらのモンスターは召喚酔いをしない。


「現状2000ライフが削られているので、20コストを獲得しました。ここから反撃の時間です」

「そういう効果もあるんだ、使い方が上手いね」

「まだ油断は出来ませんが……これを召喚します」


 謙遜する彼が2枚のカードを机へ置いた瞬間、カード周辺に白色の魔法陣が描かれた。

 そこから伸びた光は不規則に揺れながらガラスの中へ移動すると、それぞれ左だけ、右だけにしか羽の生えていない2人の赤子が出現する。


【片翼の双生児 テラ】

 Aランク 5コスト

 攻撃力500/防御力2000


【片翼の双生児 ルクス】

 Aランク 5コスト

 攻撃力2000/防御力500


「この2体は相手プレイヤーへの直接攻撃しか出来ないモンスターなので、そちらの盤面にモンスターがいる以上は攻撃が出来ません。ですが、特殊能力を使えば話は別です」

「特殊能力?」

「はい。この戦況をひっくり返す切り札ですよ」


 斎藤くんが机に向かって「融合召喚」と唱えながら2枚のカードをくっつけると、ガラスの中の2人の赤子も身を寄せ合った。

 そしてその体が溶け合ったかと思うと、新たなモンスターとしてソイツが『融合召喚』される。


【双翼の天誅姫てんちゅうき テラルクス】

 Sランク 融合召喚時に追加で10コスト消費

 攻撃力2500/防御力2500


「召喚時、能力『天誅ヘブンズ・パニッシュメント』が発動。ランダムに3体のモンスターを破壊する」


 彼が読み上げると同時に、テラルクスの左手から放たれた天誅砲がゴブリンと子ゴブリン2体を消滅させた。


「テラルクスは召喚酔いをしません。なので続けて攻撃を繰り出します」


 美しい翼を生やした少女の姿をしたそのモンスターは、使用者の命令通り右手に構えた白銀の剣を振るう。

 そこから放たれた三本の衝撃波が、残っていたゴブリンとゴブリン兄貴を消し去り、続いて瑛斗のライフを2500削った。


「3体同時攻撃、テラルクスの能力です」

「これは一気に形勢逆転だね」

「ええ。次のターンで確実に勝ちに行きます」


【残りライフ】

 狭間 500

 斎藤 1000


 フィールドにモンスターはいない今、負けはほぼ確実となっている。瑛斗は自分の手札を見つめながら、新たにドローするカードに祈りを込めた。

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