第242話

 WASSup調子はどう?のイベントが終わると、ファンたちは皆胸の内の篝火が消えるまでその余韻を噛み締めていた。

 もちろん僕も例外ではなく、少し離れた場所にあるベンチから同志たちと共鳴していたところ、ステージに見覚えのある顔が現れる。

 確か、生徒会長の茶柱さばしら 咲優さゆ先輩だ。あのオーラは間違いない。


「生徒会長の茶柱だ。私がここに立つ予定は無かったのだが……まあ、学園長から頼まれてしまっては断れないだろう」


 そのクールな話し方は、普通の人がすれば変な奴という印象がつきそうなものだけれど、茶柱先輩ならそうはならない。

 この学園にも生徒会選挙というものはあるが、大して大きなイベントにはならない。なぜなら、生徒会長だけは選挙で選ばれることがないから。


「今日は私も、ただの生徒として楽しむつもりだったんだがな。さっさと仕事を終わらせてしまおうか」


 生徒会長になる資格は、学年に関係なく『学園で一番ステータスの総合値が高い者であること』のみ。

 要するに、茶柱会長は学園で最も優秀な生徒ということなのだ。あたりまえだけれど、それはS級の中でもトップということになる。


「あの人は……恐ろしいまであるわね」

紅葉くれはもそう思う?」

「当たり前よ。総合値が私の2倍以上あるんだから」


 そこらのS級を3人連れてきて、ようやく互角の勝負ができるレベルの強者。

 そんな彼女が生徒会長という立場にいてくれれば安心感を感じると共に、もしも目をつけられたりすれば逃げ道もないだろう。


「身長も2倍あるかな?」

「それは無いわよ。ていうか、殴られたい?」


 紅葉は怒っているけれど、本当に2倍ありそうに見えるほど茶柱会長の影は大きいのだ。

 さすが、『統率力』と『我軸』という固有ステータスの持ち主である。リーダーシップの塊のような人ということだ。


「これから諸君らにはゲームをしてもらいたい。なに、難しいものじゃない」


 会長がそう言いながら指を鳴らすと、同時に生徒全員の学園デバイスが『ピコン♪』とメールの着信音を奏でる。

 差出人は学園長。件名には『ランクマッチゲームについて』と書かれてあり、以下はルールが続いているようだった。


「長い文章を読むのも時間の無駄だろうから、私が要約したものを読み上げてやろう。このゲーム、簡単に言えばS級とF級を取り合うゲームだ」


 S級とF級を取り合う。どいう意味かと生徒らが首を傾げていると、会長は含み笑いをしながら続きを読み進める。


「今、デバイスに自動でアプリがインストールされた。それを使って4人と互いにトモダチ登録をするんだ」


 確認してみれば、確かに『ランクマッチゲーム』という名前のアプリが増えていた。

 開いてみれば、まっさらのトーク欄とQRを読み込むor表示するボタンが映し出される。これで4人追加すればいいんだね。


「自分とのランク差があればあるほど、獲得出来るポイントは大きくなる。それが多ければ、このイベントの予選は勝ち抜きだ」


 ザワザワと騒ぎ始める生徒たち。しかし、彼らは会長が「だが……」とマイクを握り直すと、一斉に口を噤んだ。


「S級、もしくはF級と登録した場合に限っては、ランクに関係なく獲得ポイントを5倍とする」


 つまり、E級とF級では1ポイントしか入らないところ、F級ボーナスで5ポイント入るということ。S級とE級になれば25ポイント、桁違いになる。


「ただ、S級もF級も生徒の1割に満たない。制限時間は15分と短いからな、安牌を取って他のランクと登録するのも作戦だ」


 そんな彼女の声は届いているのか、届いていないのか。生徒たちの目は近場にいる人ではなく、どこかにいるであろうS級とF級を探しているように見えた。


「おっと、ひとつ言うのを忘れていた。S級とF級の生徒にのみ適用されることなんだが……」

「「「「「っ…………」」」」」

「今ので適用されるやつが何人か炙り出たな」

「「「「……」」」」

「悪い悪い、からかいすぎた。S級とF級は言わば天と地の差だ。故にお前ら同士が登録をした場合のみ、ポイントは10倍とする」


 会場は一層のざわめきを見せ、中には既に追加をし始めている人もいる。

 ここに居ては危険な匂いがする気がした僕は、こっそり紅葉を連れて立ち去ろうとした。しかし。


「では、私もF級を探しに行くとしようか」


 会長の余計な一言によって、全員の目が僕ら2人を捉えることになる。


「そこにいる狭間はざま 瑛斗えいとクンとか、ね?」

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