第236話
「お兄ちゃん、今日遅かったね」
家に帰ると、晩御飯を作ってくれていた
「ちょっとトラブルがあってね」
「ToL〇VEる? どうせ本屋に行くなら、私が欲しいのも買ってきてくれたら良かったのに……」
「そっちじゃないよ。ていうか、どうして奈々がそんなこと知ってるの?」
「……てへっ♪」
可愛く誤魔化されてしまった。けれど、確かに可愛いから別にいいかな。
妹だってそういう年頃なのだろう、順調に成長しているようでお兄ちゃん嬉しい。
「ところでお兄ちゃん、今日
「そうだけど、どうして?」
「知らない匂いがするからね」
奈々はIHコンロを保温状態にすると、こちらに歩み寄ってきてクンクンと匂いを嗅ぎ始める。
別に何か悪いことをしていたわけじゃないのに、何故か背筋が伸びてしまった。
「お兄ちゃん、その人と何してたの?」
「その子が文化祭のポスターを台無しにしちゃって、無理矢理手伝わされただけだよ」
「ほんとに?」
「ペンキの匂いとかするでしょ?」
「……確かに。お兄ちゃんのことだから悪いことはしてないだろうけど、あまり私を不安にさせないでね?」
「うん、気をつけるよ」
そう言いながら頭を撫でてあげると、奈々は嬉しそうに微笑んで料理を再開する。
大事に思ってくれるのは嬉しいけれど、正直目が怖かったなぁ。隠し事なんてすぐに見破られそうだし、なるべく作らないようにしないとね。
「あ、お兄ちゃん。今日一緒にお風呂入ろ?」
「急にどうして?」
「ふふ、いいでしょ?」
「奈々がそこまで言うならいいけど」
「やった♪」
その後、すぐに2階へ向かった僕は知らない。奈々が「知らない女の匂い、落とさないとね……」と呟いていたことを。
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一方その日の夜、
「くーちゃん、湯加減はどうですか〜?」
「……いい具合よ」
姉妹仲良くお風呂に入っていた。ただ、紅葉の方はあまり機嫌が良さそうではなく、湯の中から首だけを出して姉を見つめている。
「お姉ちゃんも入るから空けてくれるかな?」
「……うん」
伸ばしていた脚を引っ込めてスペースを空けると、そこへ姉がゆっくりと入ってきた。
サバーっと溢れていくお湯を勿体ないなと思いつつ、彼女は気持ちよさそうにため息をつく姉のとある部分に視線を固定する。
「……くーちゃん、姉妹だからってあまり見られると恥ずかしいよ」
「ご、ごめんなさい……」
「ふふ、羨ましいの?」
「っ……」
紅葉は昔から不思議だったのだ。姉は背も高くて胸の発育も早い方だった。なのにどうして自分はいつまで経っても変わらないのだろうかと。
「お姉ちゃんは今のくーちゃん、大好きなんだけどなぁ」
「お姉ちゃんに好かれても別に嬉しくない……ことも無いけど、そうじゃないわよ!」
「じゃあ、誰に好かれたいの?」
「そ、それは……」
言い淀む様子を見てクスクスと笑った姉は、妹の頭を優しく撫でた後、そっと抱きしめながら言う。
「
「でも、いつか気が変わるかもしれないじゃない」
「くーちゃんが好きなのは誰なの?」
「え、瑛斗だけど……」
「それなら好きな人を信じなさい。恋愛の第一歩は信頼なんだから」
ハッとしている紅葉に頬ずりをしたお姉さんは、「ちょっと熱くなっちゃった」と言って風呂から出た。
そしてドアを開けながら振り返ると、にっこり笑いつつからかうように言う。
「疑ってばかりだとお姉ちゃんみたいになるぞ〜?」
いい意味でも悪い意味でも、自分よりも遥かに恋愛経験を積んできた者の言葉は、その小さな胸に大きな何かを残していった。
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