第233話
「というわけで、今から張り切っていきましょう!」
「「「「おおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
進行役の声に、クラスメイト達が拳を掲げる。どうしてこんなにも血気盛んなのかと言うと、学園長の一存より文化祭3日前にして新たなイベントが追加されたからだ。
『クラス対抗人気総選挙』
文化祭に来たお客さんが、それぞれの学年において一番良かったと思うクラスに投票し、その結果見事一番人気を集めたクラスの生徒全員にご褒美を与えるというもの。
ご褒美の内容は発表されていないものの、ランクや経歴上有利になるものなのではと囁かれている人もいた。
「元々S級の私には関係ないわね」
「持たざる者のためにする努力は好みません」
このクラスには約2名やる気のない者がいるみたいだけど、2人とも料理係だしどの道強制的に働かされるだろう。
僕自身もちょっとやそっとでランクが上がるはずはないけれど、せっかくの文化祭だし頑張るしかないよね。
「ヒャハハ! 他のクラスを叩き潰してやるわ!」
「ミンチにしてオムライスの具にしてやるぜぇ!」
バケツカップルのテンションがおかしくなっているけれど、進行役に「オムライスに使うのは鶏肉です」と普通に指摘されてしゅんとしていた。
「私たちの敵は隣のクラスです! あそこはかなり繁盛すると予想されますからね」
「のえるたそがいるからな」
「アイドルパワーを使うなんて卑怯だぜ!」
「皆さんの言い分はよく分かります。しかし、強敵を前にしている今だからこそ団結しなければならないのです!」
進行役がバンッと机を叩く。その音に紅葉がビクッと背筋を伸ばしたが、何とか背伸びしたふりをして誤魔化した。
「我々は4クラスの中でもっともランク平均が高いクラスです。しかし、アイドルのような尖った武器は持ち合わせていない!」
「た、確かに……」
「ですが、どんなに優れた槍も柄を折れば使い物にはならないのです!」
「そうだそうだ!」
クラスメイトたちの声に力が籠っていく。かつてボコボコにされていた進行役の言葉によって、ぐんぐんと士気が上がっているのだ。
「1人の力だけで勝てるほど、この戦が甘くないということを見せつけてやりましょう!」
「「「「おう!」」」」
「私たちは強い!」
「「「「強い!」」」」
「勝つのは我々A組だ!」
「「「「その通りだ!」」」」
「そのためにもメイド服の布面積を減らそう!」
「「「「…………」」」」
上ればあとは下るだけとはよく言ったもので、一瞬にしてクラスの空気は氷点下まで下落する。
本気で流れのまま了承して貰えると思っていたのか、キョトンとする彼女は女子代表によって捉えられて廊下へと連れ出された。
「あ、ちょ、助け―――――――――」
追いかけるように出ていった3人の女子の手には、まだクリーナーにかけられていない黒板消し。
数分後、戻ってきた進行役の顔が白い粉まみれになっていたことは言うまでもない。
「……ということで、頑張りましょう……ぐすっ」
その涙は願いが届かなかったことへの悔しさからか、それともチョークの粉が目に入ったせいか。
どちらにしても自業自得なことに変わりはないし、本当にそろそろ大人しくしておいた方が身のためだと思うけどね。
「まあ、僕は紅葉が着てくれるらしいからいいけど」
「あ、あれは冗談じゃ……」
「え、見せてくれないの?」
そう言ってわざと下を向くと、本当に悲しんだと思った彼女は慌てて「っ……わかったわよ!」と了承してくれた。
「よしっ。写真撮影は?」
「……1枚だけなら」
「オムライス、教えてあげたよね」
「す、好きなだけ撮りなさい!」
こうして僕は紅葉のメイド服姿(面積少なめ)を、無事カメラに収めることが出来たのである。
ただし、『他の人に見せないこと』と『下着が写った写真はすぐに消すこと』という条件付きでだったけどね。
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