第223話

 出店内容が猫カフェに決まってから数日後、机やイスなどと同時に大量の箱が学園宛に届いた。

 中身を見たクラスの女子たちは驚き、得意げに笑う進行役を一斉に睨んだ。


「猫カフェって、猫を連れてくるんじゃないの?」

「私はそんなこと一言も言っていませんが」

「まさかとは思うけど、猫って―――――――」

「ええ、皆さんに猫になってもらうんです」


 その一言でピリピリとしていた空気は張り裂け、箱をひっくり返す者や進行役に飛びかかる女子も現れる。

 しかし、それとは正反対に男子は歓喜した。もちろん僕を除いての話だけど。


「男子の皆さん、喜ぶのはまだ早いですよ。猫耳とメイド服の個数を数えてみてください」


 そう言われて代表の男子が箱の中身をカウントすると、途中から全員の表情に雲がかかった。

 なぜなら、猫耳とメイド服が明らかに女子の人数分を超過していたからである。


「当日は絶対に着てくださいね♪」

「「「「……」」」」

「な、なんですか?」


 クラスメイトたちから取り囲まれて動揺する進行役は、男子代表によって取り押さえられ、女子代表に無限往復ビンタされていた。


「お、女の子に暴力は……」

「女の子同士なら平気よ♪」

「助けてぇぇぇぇ!」

「逃がすな! ドア前を固めろ!」


 まあ、聞いていた話と違う上に、味方してくれそうな男子まで敵に回したわけだからね。自業自得と言えばそれまでだよ。


「みんな楽しそうでいいね」

「ええ、そうね」

「紅葉は加わらなくていいの?」

「私はメイド服、嫌じゃないもの」

「絶対似合うよ」

「ふふ、ありがと」

「僕も似合うかな?」

「……に、似合うと思うわ。多分」


 冗談で言ったのに、本気で困ったような顔を向けられてしまった。

 出来ればツッコミを入れて欲しかったけれど、このご時世色々な人がいるから気を遣ってくれたのかもしれないね。

 そんなことを思いながら、僕はランク関係なく全員からのヘイトを等しく集めている進行役へと視線を戻した。


「身を呈してみんなをひとつにするなんて、さすが進行役だね」

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 その後、届いたものはもうどうしようもないということになり、とりあえず全員がメイド服を試着してみる流れに。

 そのクオリティの高さに全員が驚いていたのだが、とある女子の「……なにかおかしくない?」という一言でハッとする。


「どうして初めから名札がついてるの?」

「それにサイズがピッタリなのもおかしいよ」

「……測ったりしてないわよね?」


 違和感が無さすぎるという違和感に気付き、再度進行役がジロリと睨まれた。

 先程の往復ビンタで両頬が赤くなっている彼女は、「そんなに褒めないでくださいよ〜」なんて言いつつ、業者に渡したらしい用紙を見せる。


「……私たちのスリーサイズと身長?」

「おい、男子のも書いてあるぞ」

「スリーサイズは分かるけど、男子だけにある4つめの項目はなんなんだ?」

「それはもちろんチ―――――――――」

「黙れ。いや、俺が黙らせてやる」


 指ポキをしながら近付いてくる高身長男子に後ずさりする進行役。彼女は教室の隅に追いやられると、「どうやって調べたんだ?」と言う質問に震えながら答えた。


「ふ、服の上からでも見れば分かるんですよぉ……」

「んなわけあるか、情報抜き取ったりしたんだろ」

「本当なんです! なら、あなたのサイズを言い当てましょうか?」

「なっ?! そ、それだけはやめてくれ!」

「ほう、背丈の割には……」

「信じる、信じるから!」


 形勢逆転で優位に立った進行役は男子生徒に「四つん這いになってください」と命令し、偉そうな態度で彼に腰掛けた後、ポケットから取り出したデバイスの画面をみんなに見せながら笑う。


「私、『数値的観察眼』だけはS級ですからね。盛ってる女子と持ってない男子は、言動にはよく気を付けることをおすすめします♪」


 翌日、進行役が夜道で何者かに襲撃されたという噂が広まることを知っている者はまだ誰もいない。

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