第222話
新学期が始まって1週間が経った頃の放課後、一ヶ月後に迫った文化祭のためのクラスミーティングが行われていた。
基本的に屋台や装飾は学園側が保管しているものを使うため、この時期からでも何をするかを決めればすぐに取り掛かれるようになっている。
「さすが恋愛格付制度を取り入れてるだけあるね」
「ふふ、生徒がのびのびとやれる環境が整っていますからね」
隣に座る
「何が文化祭よ、くだらない」
そんな中、こっそりと自分の席から離れて僕の横に来ている人物だけが、ブツブツと不満を漏らしていた。
「
「
「わかってるよ。でも、今年はひとりじゃないから」
「……そうね、二人だものね」
『二人』と聞いて首を傾げた麗華が「あれ、私が忘れられてます?」と聞くも、紅葉は「あなたは元取り巻きと回りなさいよ」と冷たくあしらう。
しかし、そんな彼女も進行役の生徒に「そこ、なにか意見ですか?」と聞かれると、しゅんとして小さくなってしまった。
「何も無いなら静かにして……いや、待ってください」
進行役の生徒は注意する声を途中で止めると、何を思ったのかこちらに向かって歩いてくる。
怒られると思ったのか紅葉は僕を盾にするが、進行役は3人を順番に見てから手元の資料に目を落として小さく頷いた。
「S級2人とF級、いい組み合わせです」
「どういうこと?」
「今年の文化祭のテーマは、『ランクの隔たりなく楽しむ』です。つまり、普段の嫉妬や闘争心を忘れてもらうためのもの」
「ということは、ランクを気にしない僕たちはピッタリだね」
「そういうことです」
進行役が教室の中を見回しながら「このクラスには低ランクをいじめる人がいますからね」と言うと、数名の生徒が視線を逸らす。
その中にはもちろん、いつぞやのバケツカップルもいた。紅葉と麗華のおかげか、被害はあの時だけで済んだけど。
「皆さんも3人を見習ってください」
「3人って……別に私と
「文化祭のためにも、お手本になってくださいね」
「だから、3人じゃなくて……」
「ね?」
「……わかったわよ」
絶対に引かないという強い意志を感じたからか、紅葉はまたも小さくなってしまう。そんな彼女の頭を優しく撫でてあげつつ、僕は視線を前へと向けた。
「では、今出ている意見から多数決でいいですか?」
進行役がそう言って示した黒板には、『文化祭の出し物決め』という一文と3つの案が書かれてある。
1つ目がお化け屋敷、2つ目がクレープ屋、3つ目がメイド喫茶だ。アニメなんかではよくメイド喫茶なんてやっているけれど、本当に候補に上がることなんてあるんだね。
「では、多数決を取ります」
その後、進行役によって意見の分散が数値化され、同時に最も支持を集めている案が明らかになった。それは――――――――――。
「では、今年の文化祭は猫カフェということに決まりました〜!」
「……ん? 候補にそんなのあったかしら」
「お化け屋敷とメイド喫茶が同数だったので、適当に混ぜてみたんですよ」
「どこをどう混ぜたらそうなるのよ」
「ほら、化け猫がいるじゃないですか」
「お化け要素が薄すぎない?!」
「なら、化け猫喫茶にしますか?」
「……混ぜるならそうなるわよね」
ほんの少し開いた間と紅葉の表情から何かを察した進行役は、黒板に描きかけた化け猫の文字から『化け』だけを消して、後ろにカフェを付け足したのだった。
「では、猫カフェに決定! 異議は認めない」
こうして文化祭に向けてのクラスミーティングは、無事終わりを迎えたのである。
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