第219話
「はぁ、今日から学校かぁ……」
「
「だってお兄ちゃんと一緒に居られなくなるし」
「帰ってきたらたくさん甘えていいよ」
「ほんと? じゃあ頑張るね!」
そう言って元気に玄関へ向かう彼女。学校は頑張る理由があれば楽しいところだからね。是非とも我が妹にはそうであってもらいたいよ。
「ところで、あれから宿題はちゃんと終わったの?」
「っ……それは、その……」
「お兄ちゃん悲しいよ、奈々が悪い子になるなんて」
「私のこと嫌いになった?」
「うん、宿題をしない子は嫌い」
その一言で胸を押えた奈々は、放心状態のままくるりと背中を向けて家を出てしまった。
いくら改心して欲しいからと言って、ちょっとキツく言いすぎたかもしれない。僕の方が嫌われそうで心配だよ。
『奈々ちゃん、おはよう』
『……おはようございます』
『どうしたの、顔色悪いわね』
『……いえ、何でも』
外からそんな会話が聞こえて来た数秒後、玄関の扉を開けて
「あの子、いつにも増して愛想悪いわね」
「僕が叱っちゃったから落ち込んだんだよ」
「朝から何を言ったの?」
「宿題しない子は嫌いって」
「嫌いは言い過ぎよ、私でも傷つくわ」
「ぼっちは嫌われ慣れてるよ」
「確かに。意外とメンタル鍛えられてるかもね」
彼女が「試しに言ってみて」と頼んでくるので「嫌い」と言ってみると、本当に鋼のメンタルで表情ひとつ変えない……なんてことは無かった。
「う、嘘って言って……」
「紅葉? 泣くことないじゃん」
「だって、思ってたより胸が……」
「成長痛かな」
「……殴られたい?」
僕は握りしめられた拳をそっと包み込むようにして、フツフツと湧き上がる怒りを鎮めてもらう。
それから優しく頭を撫でながら「嘘だよ、紅葉は大事な友達だもん」と言ってあげると、彼女は照れたように顔を背けながら頬を緩めた。
「と、とりあえず、奈々ちゃんには謝っておきなさいよ。グレてギャル化でもしたら困るでしょ」
「どうして紅葉が困るの」
「それは……瑛斗と結婚したらあの子は私の義妹になるわけだし?」
「ギャルと言えば、紅葉のそういう姿とか見てみたいかもしれない」
「……結婚に対しての反応は?」
「幸せそうだね」
「一般的な見解を聞きたいわけじゃないわよ!」
「少しくらい喜んでくれても……」と不満そうに頬を膨れさせる紅葉。もちろん素直に気持ちを伝えてくれることは嬉しいけど、僕はあまり口に出すタイプじゃないからね。
そんな彼女に「ギャル紅葉は?」と念押しで聞いてみると、意外にも返事は「あ、後でしてあげるから」だった。
髪を金髪に染めるなんてのは無理だとしても、格好や口調を変えるくらいはして見せてくれるかもしれない。
「そろそろ行かないと遅れるわ」
「そうだね、行こっか」
リビングに置いていたカバンを取り、靴を履いてから2人で家を出る。
その時に紅葉が「ネクタイ歪んでるわよ」と治してくれたから、僕もリボンの歪みを治してあげようとしたら手を叩かれてしまった。
「そこは口で言ってもらえる?」
「でも、紅葉だって僕のを触ったじゃん」
「……はぁ。最近、少しは女の子のことを分かってきてくれたと思ったのに」
「僕はリボンを触ろうとしただけで、体に触れようとしたわけじゃないよ?」
「そういうところよ、瑛斗」
なんだかよく分からないけど、ものすごく呆れられていることは伝わってくる。
自分はしておいて相手にはダメだなんて理不尽だよ。女の子ってやっぱりまだまだ複雑なところが多いんだね。
「でも、結局紅葉が女の子について教えてくれてるよね。初めはあんなに嫌がってたのに」
「あの頃のことは……思い出したくないわ」
「素直になれない紅葉も可愛かったけどね」
「っ……瑛斗はずっと変わらないわね、特にさらっと言っちゃうあたりが」
「ごめん、嫌だった?」
その質問に対して紅葉が「……もっと言って」と答えるまで、唸り続けること5分かかった。完全な素直になるには、まだまだ時間が必要みたいだね。
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