第215話
風呂から上がった僕は、
「あれ、何か追加されてる」
検索したのは
しかし、そんな画面の一番上に『関連アカウント』として見覚えのある顔写真のアイコンが増えていたのだ。
『のえるちゃんねる』
そう名付けられたアカウントをタップしてみると、つい先程投稿された動画が1本だけ表示される。
サムネだけでは分からなかったが、見始めてみると彼女の背後の壁が我が家のものであることが分かった。
ということは、時折端っこに映り込んでいる腕は
『初めまして、のえるたそだよ〜♪ 友達に勧められて強引にアカウント作っちゃったけど、皆見てくれるか心配だなぁ〜』
公式が関連登録したこともあってか、公開から1時間弱で既に20万再生されていた。
熱心なファンが多いんだね。僕もそのうちの一人ってことになるわけだけど。
『てなわけで、今日は最近流行りの大食いをしようと思うよー!』
画角外から『どういうわけだよ!』と奈々のツッコミが飛んでくる。なるほど、そういう役割なんだね。
『さっきアシスタントのNちゃんがご飯をデリバリーしたんだけど、間違えて100個頼んじゃったんだよね』
……ん? 100個ってどこか聞き覚えのある響きだ。つい最近聞いたばかりのような気もするけど。
『じゃーん! この海鮮丼が100個届いちゃったんだよ?』
あ、夕飯に食べたやつだ。ポタポタと醤油を垂らして、適量のわさびを乗っけて食べたらすごい美味しかったなぁ―――――――――って。
「いや、まさか身内にいたとはね」
100個頼んだ人のおかげで助かったとは思ったけど、結局僕の家から代金が出ていたとなると、状況は何も変わっていない。
この海鮮丼、ひとついくらしたんだっけ。想像しただけで怖くなってきたよ。そもそもどこから支払ったのかな。
『まあ、今は10個しかないんだけどね! さすがに100個は無理だから、同じ事務所のアイドルと近所の人に買い取ってもらったよ〜♪』
画面の中で『だからお財布の心配もなし!』と胸を張るのえるたそに、僕は心の底から安堵のため息をついた。
金銭面で親に迷惑をかけてしまっては、せっかくの学費免除が台無しになるからね。
『でも、一つでもこの量だからかなり強敵だよ』
『のえるたそなら行ける! 完食して登録者数を稼いで!』
『もぅ、Nちゃんったら卑しいな〜♪』
アシスタントではなく妹だとわかっているからか、これを全国の人々に見られていると思うと恥ずかしい。
ただ、それが売れ残った海鮮丼×10の代金を補填するためなのだと思うと、兄として何も言うまいと口を
『じゃあ、大食いスタート!』
『頑張れのえるたそー!』
その後、奈々の応援のもと海鮮丼を頬張り続ける画が2.5倍速で流れ、最終的にノエルはしっかりと食べ終えたのだった。海鮮丼3つを。
『のえるたそならまだいける!』
『いや、もうお腹いっぱい……』
『食べるんだのえるたそ!』
『お、鬼だよ……』
この企画を始めたことへの後悔によるものなのか、涙ぐみながらも頑張って食べ続ける彼女の姿が話題となり、後日数多のフードファイターからコラボ依頼が届いたことはまた別のお話。
「ノエル、ありがとう」
そんなことを知る由もないまま画面の中でムチを打たれているノエルに向かって、僕は紅葉たちが脱衣場から出てくるまで手を合わせ続けたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます