第213話
結局、片方が片方を止める作戦は失敗し、2人とも暴走し始めたところで冷水を浴びせて落ち着いてもらった。
2人ともお泊まりが楽しいから、テンションがおかしくなっているのだろう。それは微笑ましいことではあるけれど、さすがにお風呂で暴れるのは危険だからね。
「ほら、今度は僕が洗ってあげるから」
洗ってもらったら洗い返す、それが風呂場の礼儀だって曾お祖父ちゃんが言ってた。会ったことないけど。
まあ、人に洗ってもらう心地良さも体験出来たし、その分のお礼はしないといけない。
「どっちから洗って欲しい?」
「ま、前か後ろかってこと?」
「違うよ、紅葉か麗華かって質問」
僕が「前は自分で洗ってよ」と言うと、紅葉は何を期待していたのかしゅんと肩を落としてしまった。
さすがの僕も女の子の胸に触れる勇気はないからね。そういうのはお互い好きになってからだって
まあ、その後に『お兄ちゃんと私は両思いだからいつでもいいよ?』と厄介なことになったんだけど、もう過去のことだから思い出す必要は無いかな。
「紅葉さん、お先にどうぞ」
「いいの?」
「もちろんです」
やけに気前のいい麗華に彼女は訝しげな目を向けたが、特に疑うことも無いかと大人しく椅子に座ってくれた。
「じゃあ洗っていくよ」
「あの、瑛斗? お願いがあるんだけど……」
「何でも言って」
「えっと……タオルを使わないで欲しいの」
「素手で洗うってこと?」
その質問に紅葉が小さく頷いたのを見て、僕はボディソープを垂らそうとしていたタオルを桶の中へ放り込んだ。
そして手のひらの上に適量のボディソープを出すと、両手を擦り合わせて泡立てる。
「でも、どうして素手がいいの?」
「だって……瑛斗にもっと触れて欲しいから……」
「そっか。じゃあ、僕からもひとつ頼んでもいい?」
「え、えっちなことはいやよ?」
「分かってるよ。ただ、お風呂上がりに乾かした髪を撫でさせて欲しいんだ」
「別にいいけど……どうして?」
「だって触り心地良さそうだもん」
僕の答えに苦笑いを浮かべた彼女は、「いいわ、五分だけよ?」と言いながら体に巻いていたタオルを外した。
しっかりと前は隠しつつ、これから洗われる背中を見せるためだ。
「紅葉の背中って小さいね」
「今バカにする流れ?」
「違うよ、なんだか可愛いなって思ったから」
「か、かわ……?!」
「それにすべすべしてる」
「あぅ、変な触り方しないで……」
「普通に洗ってるだけだよ?」
下から上へ背骨に沿って撫でるように擦り、首の付け根まで来たら肩甲骨の周りを回るように大きく手を動かす。
その動きがくすぐったいらしく、紅葉は堪えるように何度も身を捩った。
「ほら、バンザイして」
「……これ、恥ずかしいわ」
「脇を見せてるだけなのに?」
「普段人に見せない箇所は照れるのよ」
「人に見せない箇所……?」
「そこで悩まなくていいから」
見せない箇所なんて言ってしまえば、胸や脇に限らずお腹や背中も見せないだろう。紅葉はそれですら恥ずかしがるのかな、ちょっとだけ気になる。
「瑛斗、太ももも洗って」
「追加料金発生するけど」
「……撫でるの10分でいいから」
「オプション追加だね」
「変な言い方しないで」
僕は照れたように顔を背ける紅葉の背中に体を密着させると、その体勢でギリギリ届く紅葉の膝から太ももにかけて撫でるように手を滑らせる。
触れている箇所が腰に近づいてくると、緊張からか力が入るのがよくわかった。
「紅葉、そんなに強ばらなくていいよ」
「体が勝手にこうなるんだもの……」
「大丈夫、力を抜いて。嫌なことはしないから」
「んぁ、これ気持ちいい……」
綺麗に洗われて嬉しそうに顔を火照らせる紅葉。彼女は僕の胸に体重を預けながら、時折足先をピンと伸ばしたりしている。
そんな紅葉を横から見ていた麗華は、声を震わせながらこんな独り言を呟くのであった。
「……これ、本当に洗ってるだけですか?」
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