第212話

 それぞれ海鮮丼をひとつずつ食べ、残りを冷蔵庫にしまってから3人でリビングへと向かった。

 一応シャワーで汗は流しておいたものの、しっかりと洗ったわけじゃないからね。これからお風呂に入りに行くのだ。


「じゃあ、2人が先に入ってきて」


 荷物からパジャマを取り出しつつそう言うと、麗華れいかが不思議そうな目で見つめてきた。


瑛斗えいとさんも一緒ですよ?」

「あ、海の時みたいに水着を着るの?」

「いえ、今日はそのままです♪」


 そのままということはつまり、何も来ないということになる。タオルは巻くかもしれないけれど、さすがにそれだけでは許容できない。


「無理だよ」

「私たちと入るのは嫌ですか?」

「そうじゃないけど、僕も男だからさ」

「そこは気にしちゃうんですね」

「さすがにね」


 僕がきっぱりと断ってソファーに腰かけようとすると、それでも麗華は諦めずに「断らせませんよ!」と服を引っ張ってきた。


「瑛斗さんは遠慮してるんですよね? それなら必要ありません、私たちがいいと言っているのですから」

「わ、私たちって……どうして私まで巻き込むのよ」

東條とうじょうさんは瑛斗さんと一緒に入りたくないのですか?」

「そりゃ入りたいわよ……」


 一度本心を口に出したことで照れが薄れたのか、ついには紅葉くれはまでもが「一緒がいい」と引っ張り始めてしまう。

 人数不利になればもう逆らうことは不可能。僕はズルズルと引きずられるようにして運ばれると、抵抗虚しく強引に脱衣場まで連れていかれるのであった。

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「瑛斗、痒いところはあるかしら」

「瑛斗さん、腕伸ばしてくださいね」


 そして数分後、僕は現在進行形で2人から同時に体を洗われている。紅葉がシャンプーをしてくれて、麗華がボディタオルで擦ってくれている状態だ。


「痒いところは特にないかな」

「そう、なら良かったわ」


 座っても尚少し高めの位置にある頭を、背伸びしながら頑張って洗ってくれる姿が鏡越しに見える。

 そんな彼女になんだか癒されるなぁなんて思いつつ、丁寧に指先までゴシゴシとやってくれる麗華の方へも視線を向けた。


「……ふふ♪」


 彼女は目が合うと照れたように微笑み、「失礼しますね」と反対側へ移動して左腕を洗い始めてくれる。

 紅葉の方は相変わらず高い位置に苦戦中のようで、それを見た僕は体をゆっくりと後ろへ倒してあげるた。

 すると後頭部へ何か柔らかい感触を感じ、同時に少し離れた彼女が胸元を押えながら「あ、ありがと……」と呟いてシャンプーを再開する。


「前も洗いますね」

「そこは自分で出来るよ」

「いえいえ、私にさせてください」


 そう言ってくれるならばと身を任せたのだけれど、首から洗い始めた麗華はボディタオルが下に移動するにつれて鼻息を荒くしていった。

 お腹を擦ってくれている辺りでなんだか怖くなって逃げようとするも、彼女はがっしりと腕を掴んで離そうとしない。


「麗華?」

「はい、なんでしょう?」

「下半身は自分でやるよ」

「私がやりますから♪」


 制止の声も聞かず、腰に巻いたタオルを無理矢理外そうとしてくる麗華。

 慌てて紅葉に助けを求めようと振り返るも、彼女まで何故か興味津々にその手元を見つめていた。

 タオルを取られないように押さえるので両手を使ってしまっていて、助けを借りなければどうにも出来ないと言うのに――――――――――そうだ!


「紅葉、麗華に襲われちゃうよー」

「はっ?! そ、それは許せないわ!」


 いくら興味があったとしても、その先に何が行われるのかを理解してもらえれば、彼女は必ず止めに入ってくれる。

 そう信じて取った行動が功を奏し、思惑通り紅葉は麗華が握っていた手を力ずくで押しのけて守ってくれた。


「ありがとう、助かったよ」

「……」

「ん? どうかした?」


 何やら手元のタオルを見つめたまま固まっている彼女に、僕が不思議だと首を傾げた瞬間。


白銀しろかね 麗華れいかに先を越されるくらいなら、私が丁寧に洗ってあげる……」

「……紅葉?」

「心配しなくていいわ、ちゃんと優しく触るから」

「待って、ここだけは自分で洗いたいんだよ」

「タオルを外してもらえる?」

「あれ、聞こえてない?」


 完全に周りが見えなくなっている紅葉は、先程の麗華と同じようにタオルを引っ張ってくる。

 これでは人が変わっただけで、何も状況は良くなっていないではないか。

 そう心の中でため息をついた僕がとるべき行動は、もはやこれしか無かった。


「麗華、紅葉に襲われちゃうよー」

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