第203話
とりあえず花の絵を見てみることにした彼女は、近くに落ちていた図鑑を手に取って開く。
「色んな花が載ってるわね。5つの花もちゃんとあるわ」
見ただけでは名前が分からないので、図鑑で調べてみると左からリアトリス、アロエ、ハナズオウ、グズマニア、ナンテンという植物らしかった。
「えっと、こっちは……」
絵の下にある入力装置を観察してみると、パネルに1〜5番の数字がそれぞれ割り当てられている。
もう一度絵に視線を戻すと、それらの額縁にも左から順番に番号が書かれてあった。
つまり、この絵を見て何かしらの順番を操作パネルに打ち込めということらしい。
「とりあえず名前順にしてみようかしら」
紅葉はそんな独り言を呟くと、アロエ、グズマニア、ナンテン、ハナズオウ、リアトリスの順に選択していった。
しかし、ブーッとハズレの音を鳴らしたパネルは、画面に『正解0個、あと2回』と言う文字を表示させる。
「か、回数制限があるなんて聞いてないわよ……」
そうとなれば話は別だ。数打ちゃ当たると思い込んでいた彼女も、今持てる最大の情報源である図鑑に必死に目を通してみる。
名前順でないということは、他に順番にできることがあるはずなのだ。それは回答方式とこの図鑑が置いてあったことから間違いない。
「……開花時期よ!」
その瞬間、彼女の頭の中で点と点が繋がって一つの線になった気がした。
図鑑を読む限り、これらの花は全て開花時期がバラバラなのだ。
ハナズオウは4月。
ナンテンは5月〜6月。
リアトリスは6月〜9月。
アロエは11月〜2月。
そしてグズマニアは不定期。
不定期が前に来るのか後ろに来るのかは分からない。しかし、考えても
だからこそ、紅葉は思い切ってグズマニアを最後に選んだのだが――――――――――――。
『正解2個、あと1回』
表示された文字を見て唖然とする。もしもグズマニアが先頭に来るだけであれば、全てがズレることになるため変わらず正解数はゼロのままのはずなのだ。
しかし、2個正解しているとなるとその説は完全に消えてしまう。このもう後がない状況で、新たな並びを探さなければならなくなった。
「あーもう、分からないわよこんなの!」
偽物とわかっていても、この薄暗い空間にいるとストレスが溜まる。紅葉はイライラした衝動から図鑑を床に放り投げてしまった。
しかし、奇跡的にもそれが新たな道を切り開くことになるとは、誰も思ってみなかっただろう。
「……花言葉?」
図鑑の表紙に書かれた文字をそのまま口にした彼女は、何かに突き動かされるように先程見たページを見直して息を飲んだ。
リアトリス 『長すぎた恋愛』
ナンテン 『良い家族』
アロエ 『苦痛』
ハナズオウ 『裏切り』
グズマニア 『理想の夫婦』
これらの花言葉の最初と最後を繋ぎ合わせてみると、この順番で綺麗なしりとりになるのだ。
もちろん他の花言葉を持っている植物もあるが、目の前の5つでここまで綺麗に並んでしまえば、もはや他に疑いを向ける必要性すら感じられない。
「正解に決まってるわ、これでどうよ!」
紅葉は自信満々にパネルを操作すると、決定ボタンを押した数秒後に現れた文字を見てガッツポーズをした。
『正解数5個、おめでとうございます』
その直後、背後で何か重たいものが移動するような音が聞こえてくる。
何事かと思って振り返ってみると、いつの間にか壁に空いた顔ほどの大きさの穴から、向こう側にいる
「紅葉、僕の部屋も新しい部屋に繋がったよ」
「私が謎を解いたの」
「さすが紅葉だね」
彼も一連の流れを知っていることが分かっているとはいえ、好きな人に褒められるとやはり照れてしまう。
しかし、次に待っていた脱出のための手順はそう生易しいものではないと言うことを、数分後には思い知ることになるのであった。
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