第201話
「ふぅ、騙すのも大変ですね」
「お疲れ様」
『リアル脱出ゲームを作ろう』
このシンプルなネーミングの裏には、とある大きな組織、『オリエンタルホールディングス』が隠れている。
それは麗華のお爺さんが創設した会社とその子会社の集まりのことで、このリアル脱出ゲームは来年オープンする新たな遊園地の目玉施設をそのまま屋敷の地下に再現したものだ。
それを紅葉に先行体験してもらうことで、客観的な臨場感やクオリティの審査をしてもらうという計画である。
「
「紅葉ならちゃんと怖がってくれると思うけど」
「そうですよね。お父さんも監視カメラで見ていますし、本気で脱出に取り組んでもらわないといけません」
麗華はそう言うと、次の段階に進むために瑛斗の手に手錠をかけた。彼にはこれから、紅葉と同じ『収容者』として参加してもらう。
というのも、このリアル脱出ゲームは隣の牢屋に別の人間が入っているという設定があるからだ。
互いの部屋にあるアイテムが違い、必要に応じてそれらの交換を行って出口を見つけるというストーリーである。
「遊園地ではプレイヤーの進行度に合わせて音声を流す予定ですが、今回はせっかくなので瑛斗さんに導いてもらいましょう」
「任せて、しっかりサポートしてくるから」
「頼もしいです♪」
麗華も仮面を付け直して準備完了。紅葉は瑛斗が連行されてきたことで、必ず脱出しなければならないと焦るはずだ。
そこで彼が使えそうなアイテムを見つけたと言えば、展開は大きく前へ進んでいく。
「さあ、そろそろ行くんダナ」
きっちり役になり切った麗華……いや、ソイツは思い扉を押し開け、牢屋のある場所へ向けて歩き出した。
「早くここから出しなさいよ!」
檻を揺らしながら叫ばれる声に、仮面の裏でニヤリと笑ったことは言うまでもない。
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「……探してみると色々見つかるものね」
そう呟いた紅葉の足元には、ドライバーやハンマーなどが置かれてある。どう考えても普通の監禁場所で見つかるはずのないものばかりだ。
(やっぱりドッキリか何かよね。でも、これだけでここから出られるとも思えないし……)
唯一触れる場所と言えば、壁にある細いダクトの蓋だろうか。ここならドライバーで取り外すことが出来そうだった。
(とりあえず、次に何かムーブがあってからの方がいいわ。今はまだ混乱しているように見せた方がいいはず)
彼女がそう考えた直後、暗闇の奥から扉の開く音が聞こえてくる。どうやら、
「早くここから出しなさいよ!」
檻を力任せに揺らして焦り混じりの怒声を飛ばす。紅葉は我ながらかなり本格的な演技が出来たのではと思いつつ、足音の聞こえる方をじっと見つめた。
「……瑛斗?!」
彼女はソイツの後ろに見えた存在に驚きの声を漏らすが、少し前の記憶を思い出すと心の中でなるほどと頷く。
壁にあるダクトを覗き込んだ時、向こう側にここにあるベッドと同じ物が見えていた。それが別の牢屋だったとすれば、彼が収容されに来てもおかしくはない。
「お前たちがここに連れてこられたのは、麗華様に逆らった罰なんダナ。しっかり償って貰うんダナ」
「逆らったって……瑛斗は何をしたの?」
「紅葉を連れ戻してってお願いしたんだ。そしたら『なら同じ場所に行きますか』って」
「私のせいよね。ごめんなさい……」
「謝らないで。2人で一緒に脱出しよう」
牢屋の中へ放り込まれながらもそう言ってくれる瑛斗に、「そうね」と答えた紅葉は込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。
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