第199話
あれから何事もなく屋敷にたどり着いた僕たちは、大きなエントランスホールを抜けて広々とした客間へと通される。
トイプードル軍団に襲われた
「いてて……なんなのよあれ……」
「防犯システムですよ」
「どうして私がそれに引っかかるのよ!」
ブツブツと文句を言っている紅葉は、スカートの上からお尻を擦りつつ麗華と一緒に奥の部屋から出てくる。
大事には至らなかったものの、ガブリと噛みつかれてしまった傷はしっかりと残っているらしく、消毒と手当てをしてもらっていたのだ。
「どうして
「何よ、その意味深な言い方は」
「ふふ、確認しただけですよ」
麗華はそう言いながら、数回操作したスマホを僕たちに見えるように置く。
そこには先程通ってきた迷路を上から見た図が映っていて、最後の分かれ道以外を左に進むと必ず行き止まりになっていた。
「迷路に入る際、検索履歴をハッキングすると言いましたよね?」
「言ってたね」
「実は迷路の正解は全て右の道を進むことなんです。左に進めと表示された人には、何かしら検索履歴から悪いものが見つかったということ」
麗華の説明によれば、1つ目の分かれ道では『犯罪的な検索履歴』、2つ目では『危険な宗教の検索履歴』が見つかれば左へ行くように指示されるらしい。
「私はそんなの検索した覚えないわよ」
「はい、なので東條さんは3つ目で左に送られたんですよ」
「どんな恐ろしい検索履歴が私のスマホにあるって言うのよ!」
ついに怒り始めてしまった紅葉に、麗華は何やら愉しそうに微笑むと、「少し拝借しますね」と耳元に口を寄せた。
彼女が少し囁くと、瞬く間に紅葉の顔は赤くなり、「な、何言ってるのよ!」と耳を塞いでしまう。
「そう言われても、実際に履歴があったのですから」
「身に覚えがないのよ!」
「恥ずかしがることじゃありません。この歳になればそういうことに興味は持つものですし」
「本当に知らないの!」
「ちなみに、あの機械は端末に残っている履歴しかハッキングできませんからね。その都度消した方がいいですよ?」
麗華が「私はしっかり消しているので安心ですけど」と言うと、紅葉はいそいそと自分のスマホを取り出し、画面を見つめてまた顔を赤くした。
「ねえ、どんな検索履歴なの?」
「み、見るなバカ!」
少し確認させてもらおうと思っただけなのに、僕はお腹目掛けて本気のパンチをされてしまう。そんなに見られたくないようなものなのだろうか。
「こ、これはお姉ちゃんが勝手に……」
「言い訳はしなくて大丈夫ですよ。東條さんがむっつりなのはよく分かりましたから」
「だから違うって言ってるでしょ?!」
画面を指で横にスライドした紅葉はスマホを机の上に置くと、麗華の服をガッと掴んで激しく揺らした。
「紅葉、落ち着いて」
「
「そうだとしても暴力はダメだよ」
宥めようと間に入っても、怒りのボルテージが上がってしまっている紅葉は耳も貸してくれず、僕を突き飛ばしてまた麗華に掴みかかる。
それでも平然としている麗華が「東條さん、残念です」と呟き、にんまりと頬を緩めたその瞬間だった。
ピピピピピ!ピピピピピ!
連続した電子音が激しく鳴り響き、あまりの騒がしさに呆然と立ち尽くしていた紅葉は、駆け込んできた警備員3名によって取り押さえられてしまう。
「東條さん、ここは私の家ですよ?」
そう言いながらポケットからスイッチのようなものを取りだした麗華は、それを床に倒れたままの紅葉の目の前で振って見せた。
「つまりは私のテリトリー。あなたを貶めることくらい簡単なことなんです」
「な、なんのためにそんなことを……」
「ふふふ、それはもちろん勝つためですよ」
彼女は僕の腕を掴んで引き寄せると、まるで見せつけるように強く抱き締めてくる。
紅葉はそれを必死で止めようとするが、麗華の「予定通りお願いしますね」という一言で警備員たちに持ち上げられると、そのままどこかへと連行されてしまった。
「紅葉はどこに連れて行かれたの?」
「ふふ、罪人にピッタリな場所です」
「処刑台?」
「ちょっと過程を飛ばしすぎですね」
僕の言葉に苦笑いをした彼女は、一度こちらへ向けた人差し指をゆっくりと真下へ向け、さぞ愉快そうな口調で言った。
「地下牢ですよ♪」
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