第190話
「なんだか2人の距離が近くありませんか?」
「そう? 気のせいね」
不思議そうに首を傾げる
ようやく名前の件が解決したらしい麗華は、溜まっていた宿題を片付けるためと、僕の家に来ていた。
紅葉の方は宿題はほぼ片付いているものの、夏祭りの翌日から毎日この部屋に入り浸っては、特に何もすることなくダラダラしている。
「紅葉、自分の部屋でのんびりしたら?」
「……
呆れたような顔をして見せた彼女は、わざとなのか自分の唇に指を触れさせてから、再度手元の漫画に視線を戻した。
この仕草に、僕はつい目を逸らしてしまう。あのキス以降、紅葉がこういう顔を見せると少しだけ異性という印象を強く感じるようになったのだ。
「やっぱり怪しいですね。私がいない時に何かあったんですか?」
「別に何も無いわよ。ね?」
疑いにかかる麗華に紅葉はとぼけながらこちらを見てくる。最後の『ね?』は話を合わせろという意味なのだろう。
「うん、何も無いよ」
「そうですか? 瑛斗さんがそう言うなら……」
麗華は半信半疑のまま小さく頷くと、宿題を再開した。ずっと真面目にやっているから、かなり進んだ頃じゃないかな。
「キリのいいところまで終わったら休憩しよっか」
「そうですね」
「飲み物でも持ってくるよ」
僕がそう言って立ち上がると、「私も手伝うわ」と紅葉が後を着いてきてくれた。
2人で部屋を出てキッチンに向かうと、クッキーとりんごジュースを用意してお盆に乗せていく。
「紅葉、あんまり露骨にくっつかれると、麗華に疑われちゃうよ?」
「……それは離れろってこと?」
「そういうわけじゃないけど、隠すってことは知られたくないんでしょ?」
僕の言葉に首を縦に振った彼女は、「でも……」と持っていたペットボトルを机に起きながら言った。
「一番近くにいたいと思うのは普通でしょう?」
「僕にはよく分からないよ」
「少なくとも私は瑛斗の横にいたいわ。キスしたことは知られたくないけど、他の女の子に取られたくないの」
紅葉も紅葉で必死なのだろう。少し潤んだ瞳に見つめられながら、「独占欲が強い女の子は嫌い?」と聞かれてしまえば、彼女を否定することなんて出来るはずがなかった。
「前に言ったでしょ? 僕は素直な紅葉の方が好きだって」
「……うん」
「大丈夫、嫌いになんてならないよ」
叔父さんとの『恋愛禁止』の約束がある以上、いくら僕が恋愛感情を知らないからという理由を捨てようと、彼女の気持ちに応えることは出来ない。
けれど、やっぱりノエルの時と違ってはっきり言葉に出来ないのは、返事はわかってると言われてしまったからなのか。それとも―――――――――。
「でも、休憩の間くらいは少し離れてね」
「どうして?」
「紅葉がもたれてくるから、右肩だけ凝っちゃって」
「……ご、ごめんなさい」
「膝の上なら大丈夫なんだけど」
「ちょ、調子に乗らないでもらえる?!」
紅葉は頬を少し赤くしたままぷいっと顔を背けると、お盆を持って2階へと向かってしまった。
善意で勧めたつもりなんだけど、膝の上は子供扱いされてると思っちゃったのかな。
「お詫びにたま〇ボーロを……いや、これも子供扱いだと思われちゃうか」
僕は悩んだ挙句、偶然見つけたポ〇キーを持っていったのだけれど、まさかこれのせいであんなことになるなんて思わなかったよ。
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