第185話
それから、輪投げ、ラッキーボール、くじ引きをし、スーパーボールすくいとぷよぷよすくいのどちらが面白いかを議論した後―――――――。
「……はぁ」
「そんなため息つかないでよ」
僕たちは、
「身長が絡む遊びは嫌いなのよ」
「僕はしたことないからやってみたいんだ」
「なら、私は見てるだけにするわ」
ぷいっと不機嫌そうに顔を背ける彼女。僕はイヴを連れて店のおじさんに近付くと、「2人分お願いします」と言って400円を払う。
「これがイヴの分だよ」
「……」ジー
「どうかした?」
弾の入った器を差し出すも、彼女はそれを見つめたまま固まってしまう。もしかして、射的のやり方を知らないのだろうか。
「イヴ、銃にコルクの弾を押し込むだけだよ」
「……」コクコク
「あ、知ってるって?」
イヴは大きく首を縦に振ると、カバンの中を漁って200円を差し出してきた。
なるほど、固まっていたのは僕がイヴの分も払っちゃったからだったんだね。
「気にしないでいいよ」
「……」フリフリ
一度断ったものの、彼女は断固として引き下がろうとはしない。もしかすると
「わかった、受け取っておくよ」
「……♪」
イヴは満足そうに頷くと、慣れた動きで弾をセットし始めた。
見たことがある程度の僕と違って、僅か2秒でカチッとレバーを引くところまで終える。
「……」
肩の高さで構えると、左目を閉じて獲物を真っ直ぐに見据えた。そして――――――――――。
パァァァン!
その音が響くとほぼ同時に、棚の真ん中にあったお菓子が後ろ側へと落ちる。僕はそのずば抜けた才能に、思わず銃を置いて拍手してしまった。
「イヴ、すごいよ」
「……」ドヤッ
「何かこういうスポーツやってたの?」
「……」フリフリ
彼女は首を横に振ると、右手に何かを持つようなジェスチャーをし始める。
親指でボタンを押しているあたり、どうやらゲームのリモコンを握っている様子のようだ。
「ゲームで鍛えたの?」
「……」コク
「もしかして、はじめての
「……」コクコク
「それ僕も好きだった」
イヴが言っているのはおそらく、世界で初めてプレイされたWeeのポインターゲームのことだろう。
かなりやりこんでいたから、記憶にしっかり残っている。初めは鳥もポイントに入るなんて思わなかったんだよね。
「ねえ、早く撃ったら?」
「ごめん、思い出に
紅葉に急かされ、さっさとレバーを引いて銃をセットする。イヴのように上手くは狙えないから、僕は腕を伸ばして景品の近くに銃口を持っていく作戦だ。
「よし、取れた」
「……♪」
さすがに距離が近いため、外すことは無い。後ろに落ちた景品をおじさんから受け取り、「……高身長め」と呟いている紅葉に渡してあげた。
「……何これ」
「イチゴ味の飴玉だよ。嫌いだった?」
「そうじゃなくて、どうして私に?」
「だって、つまんなそうな顔してるから」
僕の言葉を聞いてハッとしたように頬へ手を当てた紅葉は、「べ、別にそんなことないわよ!」と表情筋を解し始める。
「でも、いらないなら返してもらおうかな」
「い、いるわよ! 絶対にいるから!」
彼女はそう言って飴玉を口に放り込んだ。しかし、その直後に鼻をピクリとさせると、体をプルプルと震えさせる。
心どころか体まで震えるほど美味しかったのかと思ったが、どうやら違うらしい。彼女はくしゃみを我慢しようとしていたのだ。
「……くしゅん!」
限界を迎えた瞬間、紅葉の口からは息と共に飴玉が勢いよく発射される。
それは真っ直ぐに飛ぶと、台の上にあった別の飴を向こう側へ落とした。
「お、お嬢ちゃん……すごい芸だね」
周囲もその光景に驚き、店のおじさんは苦笑いしながら紅葉を見る。
少ししてからようやく自分のした事を理解した彼女は、一気に顔を真っ赤にすると「お、御手洗に行ってくる!」と逃げるように走っていってしまった。
「余計なこと言っちゃったかな?」
「いえ、多分大丈夫ですよ」
申し訳なさそうに後ろ頭をかくおじさんから景品のレモン味の飴を受け取った僕は、すぐに帰ってくるだろうと次の弾を詰めた。
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