第162話
あれからしばらくビーチフラッグを楽しんだ僕たちは、少し浅瀬で熱くなった体を冷やしてから、家に戻るなりお風呂に入って海水を流した。
イヴは少し怖がっていたけれど、ノエルに手を繋いでもらっていたおかげで何とか落ち着いていられたらしい。
「結果的に勝ったのはノエルちゃんだったのね」
「序盤は私だったんですけど」
「悔しいです……」
バスタオルで髪の水分を取りながら、
休憩を挟みながら10回ほど行われた勝負では、初めは足の速い
「ダンスのおかげで体力はあるから♪」
「アイドルってすごいんだね〜」
「ふふふ、なので今後は逆らわない方がいいですよ?」
「き、肝に銘じておきまふ……」
嬉しそうに笑う彼女から感じられる威圧感に、思わず敬語が出てしまうカナ。この二人、すぐには仲良くなれそうにないね。
「
「どうせ気のせいでしょ」
「あれ〜? 紅葉ちゃん、瑛斗くんに触れることすら出来なかったから、嫉妬しちゃってるのかな?」
「ち、違うわよ! 瑛斗にそんな力なんてないって言ってるだけで……」
シャワーが熱かったせいか、顔がほんのりと赤みを帯びている紅葉に、ノエルは「チッチッチッ」と指を振って見せた。
「ハグはストレスを減らしてくれるんだよ? ストレスが減ればお肌の調子は良くなる。好きな人なら尚更だよ」
「ま、またそんな冗談を……」
「そう言ってればいいよ、冗談だと思われてる方が好都合だし♪」
ノエルはその冗談が好きなのだろうか。確かに紅葉や麗華が変な表情をするから面白くはあるけれど、もしも僕が本気にしたらどうするつもりなのかな。
「っ……でも、あなたはアイドルだから……」
「私はアイドルでいる限りは、瑛斗くんと結ばれることは絶対に無いよ。それは契約としてもファンの信頼のためにも約束する」
「じゃあ、好きなんて言っても意味なんて……」
紅葉がそこまで言いかけると、ノエルは彼女をグイッと引き寄せて耳元に口を寄せた。
何を言ってるのかは聞こえなかったけれど、二人の表情を見る限り日常会話の範疇でないことは確かだ。
「ふぅ。そろそろ帰る支度をしようかな」
ノエルは少し会話して紅葉から離れると、そう口にしてイヴと共に部屋へと戻っていく。
ガチャリという音が聞こえた数秒後、僕も奈々とカナの方を振り返って言った。
「じゃあ、僕たちも戻ろうか」
==================================
数分後、紅葉&麗華の寝室にて。
「さっき、ノエルさんに何を言われたんですか?」
黙々と服を畳んでカバンに入れていた紅葉に、麗華がそう質問した。聞かれた彼女は一瞬手を止めると、片付けを再開しつつも先程の会話の内容を伝える。
『伝えてすらいない人に言われたくないかな』
『別に私は……』
『素直になれない人は私の敵じゃないよ』
『アイドルに言われる筋合いは―――――――』
『アイドルだから言ってるんだよ。素直になっちゃいけない立場でも素直になってるから、私はあなたたちに言う権利がある』
『ど、どういう意味?』
『私はアイドルでトップを取るよ。そうすれば、引退後の私はどんな芸能人とも釣り合わなくなる』
『……』
『そんな私が告白すれば、いくら瑛斗くんでもその価値を理解してくれるはずだよ!』
ノエルが得意げな声でそう言っていたと聞いた麗華は、「そう上手く行きますかね……」と悩ましげに首を傾げる。
「私は無理だと思うわ。いくらすごいアイドルでも、瑛斗からすれば関係ないもの」
「私も同感です。瑛斗さんはS級にもE級にも変わらずあの態度ですからね」
「そもそも、男と女の区別するしてるのか怪しいわよ。自分かそれ以外かでしか分けてないんじゃないの?」
「それ、ほぼR○LANDじゃないですか」
麗華の呟きに紅葉は思わず笑みを零し、突如始まった瑛斗の悪口大会はその後もしばらく続いたそうな。
「デリカシーがないのよ」
「下着姿でも普通にハグを受け入れましたからね」
「それはありえない……って、いつの話よ」
「私がまだ
「……ちょっと触れづらいわね」
「……はい、触れないで貰えるとありがたいです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます