第159話
何とかノエルを落ち着かせ、精神的な意味で傷付いたカナを慰め終わった頃。僕たちは家のガレージらしき場所で涼んでいた。
「そう言えば、昨日こんなものを見つけたんです」
分かりやすく言うと、バーベキューなどで肉を焼く時に使うやつだ。
「そう言えば、冷蔵庫に塊のお肉があったわよね」
「調理しづらいので使わないと思っていたのですが、せっかく家にあるものは自由に使っていいと言ってもらえていることですし……」
美味しそうなお肉とバーベキューセット。これの2つが揃っている状況で、ベジタリアンではない人間がほかのものを食べようと思うだろうか、いや思わない。
「せっかくの最終日なわけだし……」
「せっかくのお肉ですから……」
2人がどうして最後まで言い切らないのかは分からないけれど、その意図が見え見えなのだから黙っておく必要も無い。
「じゃあ、お昼はバーベキューだね」
僕がそう言うと、彼女たちの表情がパッと明るくなり、取れちゃうんじゃないかと言うくらい何度も首を縦に降った。
「
「男の子は好きですからね、こういうの」
何故か僕の案みたいになってるけど、まあいいかな。どうせ食べるものは変わらないわけだし。
嫌とは言わないと思うけれど、念の為「他のみんなもバーベキューでいい?」と聞いて了承を取って置いた。
「イヴも大丈夫?」
「……」コク
彼女は小さく頷くと、両手をこまねきながら何かに噛み付くジェスチャーをして見せてくれる。
これはネコ――――――じゃない、ライオンかな。おそらく、お肉が好きっていうアピールだろう。
「じゃあ、炭コンロをセットしといて。そっちに炭を運んでいくから」
「わかったわ」
台車を押していく紅葉と麗華の横を通り、僕は倉庫から炭の入った袋を取り出した。量があるからかそこそこ重いね。
「……」
「イヴ、手伝ってくれるの?」
「……」コク
「ありがとう。じゃあ、そっちを持ってくれる?」
「……」コクコク
そう言って彼女に片側を持ってもらうものの、流石に重かったらしく少しフラついてしまう。
ノエルはそんなイヴの腰を支えつつ、炭運び隊に加わってくれた。これで一人の負担は3分の1だ。
僕はカナに着火剤を、
「もう準備できたわよ」
「完璧ですね」
紅葉たちは既に炭コンロをセットし終え、食べるためのテーブルや椅子の用意まで終わらせてくれていた。
日除けのためのパラソルも、しっかりテーブル中央の穴に刺さっている。
「じゃあ、まずは着火剤かな」
「あら? 瑛斗、火をつけられるの?」
「付けたことは無いよ。そもそもバーベキューすら初めてだよ」
「ぼっちには無縁だものね」
お互いに傷を抉り合って少し悲しい気分になった後、僕はカナから受け取った着火剤をコンロの中に入れる。
その上に炭を空気の通り道を作るよう意識しながら入れ、奈々がドヤ顔でカッコよく構えているチャッカマンで火をつけた。
「あとは空気を送り続けるだけだったと思うけど」
「瑛斗、どうして火の起こし方なんて知ってるの?」
「一度調べたことがあるからね」
「まさかパリピに憧れて……」
「いや、無人島に流れ着いた時のために覚えておこうと思ったからだよ」
「……あ、そう」
昨日、実際に唯斗が浮き輪で流されかけているからだろう。紅葉は「無いともいい切れないから、何も言わないでおくわ」と呟いて、炭に息を吹きかけ始めた。
「これで本当に火が着くの?」
3分後、延々とふーふーしているせいで頭がクラクラしてきたと紅葉がリタイアする。
その代わりとして麗華が一息吹きかけると、一瞬で炭が勢い良く燃え始めた。
「ふふっ、
「別にタイミングが良かっただけでしょうが」
「自然は時に不思議な力を発揮しますからね。東條さんでは燃えたくなかったのかもしれませんよ?」
「……そろそろ手が出るけど?」
「あー怖い怖い。そんなだから萌えないんですよ♪」
「この炭コンロを鎖で足に括りつけて、太平洋のど真ん中に捨ててやろうかしら」
余裕の笑みを浮かべる麗華と、きっと鋭く睨みつける紅葉。2人のやり取りを横目に、僕とイヴは火に手をかざして水気を蒸発させていた。
「イヴはお肉には白ご飯いる派?」
「……」コク
「やっぱりそうだよね。今からでも炊いたら間に合うかな」
「……」コクコク
「じゃあ、準備しに行こっか」
「……♪」
喧嘩する2人をその場に残し、僕たちは早足で家の中へと戻ったのだった。お茶碗も人数分持っていかないとだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます