第156話
翌朝、
まぶたを開いてみると、
ヨダレを垂らしながら「ショートケーキのいちごは好きな人にあげるものだよ〜うへへ……」なんて寝言を言っているから、犯人は彼女では無い。
それに、今も僕はまだ重さを感じている。つまり、布団の中に何かがいるのだ。
「って、カナしかないか」
奈々とは反対側の隣を見てみると、そこに寝ていたはずのカナの姿がない。どうせ彼が寝起きのイタズラでもしようとして潜んでいるのだろう。
それならば逆に仕返しをしてやろうと考えた僕は、布団の中に手を突っ込むと手探りで彼のお腹に指を這わせた。
中学生の時、彼はこれが苦手だと言っていた気がする。それは今も変わらないらしく、すぐに布団の中で悶え始めた。
「っ……っ……!」
そろそろ限界そうなので一度腹から手を離し、それを同じく手探りで上へとスライドさせる。
優しく首をこちょこちょとしてあげると、今度はもっとして欲しいと自分から手に顔を当ててきた。
これは、意地悪をした後に優しくして改心を促す作戦なのだ。
そのおかげでカナも大人しく――――――――。
「
「……あれ?」
僕は扉を開けて入ってきたカナを見て、思わず声を漏らした。彼がずっとそっちにいたのなら、布団の中にいるのは誰なのだろう。
「……」
「……もう、瑛斗くん酷いよ」
おそるおそる布団をめくってみると、そこには顔が真っ赤になったノエルが居た。布団の中が息苦しかったらしく、やたら息も荒い。
「なんでここにいるの?」
「な、なんでかなぁ?」
「あ、触り心地良さそうなお腹が――――――」
「驚かせようと思って待機してました! お願いだからお腹はやめて?!」
「初めから話してくれればいいんだよ」
僕が彼女の頭をポンポンと撫でると、カナが「先輩だけズルいよ〜!」とベッドに上がってきた。
「黒木さんは男の子なんだよね? いまだに信じられないけど……それなのに瑛斗くんにしてもらうの?」
「お、男じゃダメなんですか?」
「そういう訳じゃないけど……」
ノエルはカナをじっと見つめると、「敵になるなら分かってるよね……?」と意味深なことを囁く。
紅葉と麗華が仲良くしてくれてるわけだし、この2人も争いごとはなしにして欲しいんだけどなぁ。
「僕はカナがして欲しいなら撫でるよ?」
「え、いいの?」
「減るものでもないからね」
そう言ってポンポンとしてあげると、彼は嬉しそうに笑って「朝ごはんの準備してくる!」と寝室を飛び出していった。
「瑛斗くん、私ももう一回だけいい?」
「いいけど、アイドルは握手会で撫でられたりもするの?」
「それはないよ、男の子に撫でられたのは瑛斗くんが初めてだし……」
「それは光栄だね」
僕はノエルの頭をひとしきり撫でてあげた後、ご機嫌な彼女を起き上がらせる。そして、手探りで触れていた時から気になっていたことを聞いてみた。
「ところでノエル、そのポケットに入ってるのは何?」
「ぽ、ポケット? な、なんのことかな?」
「はみ出てるよ」
「え、嘘っ?!」
「うん、嘘。でも、見られちゃまずいものみたいだね」
服の上から触れただけだから、『何かが入っている』ことしか分からなかったけど、明らかに膨らみが大きかったからさ。
普通に生活していたら、ポケットにそんなに物を詰め込むことなんて無いでしょ?
「見せて」
「……無理」
「今なら怒らないよ」
「そんなの嘘だよ」
「それ、今見せてくれたらプレゼントするけど」
「私が盗りました!」
「はい、実刑」
僕は彼女が差し出した見覚えのあるパンツを取り返すと、そのまま彼女をベッドから下ろし、奈々が一応と持ってきてくれていたゴーグルで両手を縛った。
「……プレゼントは?」
「今度あげるよ、新品を買って」
「だ、騙された?!」
アイドルが下着泥棒なんて、ゴシップのいいネタになってしまう。
僕は「ノエルを更生するために、心を鬼にするんだからね」と伝え、彼女をリビングへと連れていった。
「瑛斗、おはよ……って朝から何やってるのよ」
「
その後、彼女にノエルの罪を伝えて身柄を引き渡し、奈々を起こすために寝室へと戻る。
「瑛斗さん、助け……」
「盗みは犯罪だって、教えてあげないといけないわね」
「く、紅葉ちゃん……い、痛いのだけは……!」
「罪人に口なしよ」
リビングに響き渡る悲鳴を聞いて、僕は少し痛む胸を押さえる。ノエルが真っ当な道に進んでくれれば、この痛みもきっと和らぐよ。
まあ、奈々と一緒に1階に降りた時には、執行官が一人増えちゃってたけど。
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