第154話

「ふぅ、ご馳走様〜♪」


 満足げにお腹を擦るカナは、食べ終えたみんなの皿を重ねると流しへと持って行く。


「カナちゃん、洗い物は私がやるよ」

「奈々ちゃんは休んでて? 料理任せちゃったし、私がやるよ〜♪」

「ねえ、何を企んでるのかなぁ?」

「ふふ……善意100%だよ〜?」


 2人は何やらこそこそとやり取りをした後、「喧嘩はダメだよ」とノエルに止められてしまっていた。


「家事は取り合うものじゃないよ。みんなのためにするものだからね?」

「「はぁい……」」

「というわけで、私が女子力を見せてあげる♪」

「「いやいやいや」」


 結局、3人で取り合う事になってたけどね。


「……」

「と、東條とうじょうさん? まだ怒って……」

「別に」


 麗華の方は、飲んでいたお茶を机に音を立てて置き、沢〇エリカ状態に陥ってしまった紅葉くれはに戸惑っているらしかった。

 ケチャップ混入事件のことをまだ怒ってるんだね。食べられないものってわけでもないし、普通に美味しかったけどなぁ。


「……」コックリコックリ

「イヴ、もう眠い?」

「……」ウトウト

「歯磨きして寝よっか」

「……」コク


 今にも寝落ちてしまいそうな状態の彼女を支え、騒がしい部屋を後にする。

 洗面所へと向かうと歯ブラシを差し出されたので、イヴをイスに座らせて歯を磨いてやる。


「ほら、うがいして」

「……」ガラガラペッ


 口元をタオルで拭ってあげてから、一緒に二階の寝室へと向かう。ベッドへ横になった彼女に布団をかけ、要求されたから寝息を立て始めるまで手を握ってあげた。

 それからリビングへ戻ると、何があったのか紅葉が大きな箱を抱えているのが見える。


「紅葉、それは?」

「DVDが入ってたわ。向こうの部屋で見つけたの」

「もう怒ってない感じ?」

「別に怒ってないって言ってるでしょ?」

「紅葉が怒らないなんておかしい」

「……私を何だと思ってるのよ」


 小さくため息をついた彼女は、「瑛斗も来なさい」とソファーの方へと歩いていく。

 よく見ると、彼女の頬が少し膨らんでいた。さては、麗華たちに餌付けされたんだね。


「じゃあ、どれから見ようかしら」

「これなんてどうですか?」

「これがいいと思うな〜♪」


 箱を覗き込みながら話し合っている彼女たちだが、どのDVDにも映画らしきタイトルしか書いておらず、詳しい内容は再生してみなければ分からない。


「これにするわよ」


 そう言って紅葉が取り出したのは、『僕からこの世界の君へ〜RLアールエル〜』と書かれたDVD。聞いたことの無いタイトルだけれど、恋愛映画だろうか。


「いいですね、それにしましょう」

「『かいけつのロリ』が良かったな〜」

「それってどんな映画なの?」

「ロリっ子がおじさんの悩みを解決するお話だよ〜」

「……すごく危険な匂いがするわね」


 カナは少し残念そうだが、ないものを求めても仕方がない。あったとしても他のみんなが拒否するだろうけど。


「DVDをセットして……再生!」


 ボタンを押すと同時に、自宅には無いほど大きなテレビに映画が再生され始める。

 イヴの迷惑にならない程度の音量に調節した頃、三角に囲まれた『東〇』のロゴが映し出された。


『ねえ、明日地球が終わるとしたら何食べたい?』

『そうだな、ミホのカレーが食べたい』

『もう、ガン〇ムったら♪』


 初めに流れたのは海辺で男女が語らうシーン。なかなかに使い古された話題ではあるけれど、恋愛映画っぽさはかなり出てるね。

 まあ、主人公の名前が引っかかるけど。


『明日、私が何もかも忘れるとしたら、最後に何がしたい?』

『またそれ? 流行ってるの?』

『いいから答えて』

『そうだな……出し切れるだけの愛を全部注ぎたい』

『もう、ガ〇ダムったら♪』


 次はベランダで星を眺めながら語らうシーン。2人は笑い合うと、そっと唇を重ね合う。

 ノエルは両手で顔を覆っているけど、思いっきり指の隙間から見てるね。奈々くらいガン見してる方がいっそ清々しいよ。


『ミホ、ミホ?! どうしたんだよ、ミホ!』

『……』

『し、死んでる……』


 そして、翌朝になると女の方がベッドの上で冷たくなっていたというとんでも展開。かと思いきや、女はムクリと立ち上がって男を見つめた。


『み、ミホ……?』


 しかし、その瞳からは生気を感じられない。彼女はゆっくりと手を伸ばすと―――――――――。


『グラァァァ!』

『ミホ?! くっ……』


 男の肩に噛みつき、白いシーツに血が飛び散った。女はいわゆるゾンビと言うやつになったのだ。理由は分からないけど。

 彼女はそのまま家から飛び出すと、出会う人全員に噛みついて感染させていく。

 そのシーンを見て、隣に座っていた紅葉がこちらへ倒れてきた。彼女には少し刺激が強すぎたみたいだね。

 その後、主人公は一週間の昏睡状態に陥ったものの奇跡的にゾンビ化は免れていた。しかし、目覚めた世界では人口の9割がゾンビ化or失血死しており、まさに世界の終わり状態。


『ついに見つけた……ミホ!』


 それからなんやかんやあって、ゾンビの親玉と化したミホを追い詰め、銃で弱点である臀部でんぶを狙い撃ち。

 人間だった頃のミホは、いつも痔に悩んでいたというエピソードがなぜかここで挿入された。


『これで決めるのよ!』

『ああ、終わらせてやる』


 ここで突然現れた見知らぬ女に箱を投げられ、主人公は中から大きな武器を取り出して構える。素人のはずなのに、何故か組み立て方を知っていたことは気にしないでおこう。


『グラァァァァァァ!』

『ミホ、僕から君への最後の贈り物だ』


 主人公ガン〇ムは憂いを含んだ表情でそう告げると、構えたロケットランチャーの引き金を引いた。

 見事弾が命中したミホは粉々になり、漂っていた瘴気も薄れていく。


『これで終わったんだな』

『ああ、よくやったガン〇ム』


 またも見知らぬおじさんが登場して、主人公を褒めるだけ褒めてどこかへと立ち去って行った。せめて名前だけでも教えて欲しい。

 最後にひとりぼっちになった主人公は、ミホだったものの欠片を眺めながら、意味深な一言を呟いたのであった。


『この世界の君も、この運命を免れなかったね』


 そして流れるスタッフロール。結局、初めから最後まで何を伝えたい映画なのかは不明だったよ。

 でも、一つだけわかったことがある。


「RLって、ロケットランチャーの事だったんだ」


 周囲で倒れたり寝落ちたりしているみんなを見回しながら、少しスッキリとした僕であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る