第150話

 空が少しオレンジがかってきた頃、僕たちは荷物を持って家の中へと戻った。そろそろ夕食の支度をしないといけないからだ。


「まずはお風呂に入らないとね」


 何の気なしにそう呟くと、後ろを歩いていた紅葉くれはたちがなにやらコソコソと話し始める。

 そして、麗華れいかが「瑛斗えいとさん」と声をかけて来たので振り返ってみると、何やらソワソワと落ち着かない様子だった。


「もしかして先に入りたいの?」

「いえ、そうではなくて……」

「一人で入りたい?広いお風呂だもんね」

「違います、むしろ逆というか……」


 逆?ということは、みんなで入りたいってことだよね。それなら昨日の夜となんにも変わらないと思うけど。


「いいよ、みんなで入りたいんでしょ?」

「本当にいいんですか?!」

「逆にどうしてダメって言うと思ったの?」

「だって、瑛斗さんはそういうところには気を遣いそうですし……」

「大丈夫だよ、気にしないで」


 麗華は「ありがとうございます!」と満面の笑みを見せると、紅葉たちと一緒に小さくガッツポーズをしていた。

 そんなにみんなで入るのが好きなのかな? まあ、僕はどっちにしても一人だし、後でのんびり温まろう。

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「――――――あれ、なんでこうなったの?」


 シャンプーをしていた僕は、目の前の鏡に映っている光景に首を傾げた。

 つい数分前、確かに「お先にどうぞ」と順番を譲られたはず。何度思い返しても、記憶違いだとは思えない。

 しかし、実際にその女性陣がぞろぞろと浴場に入ってきたのだ。それも水着を着た状態で。


「麗華、まだ僕が入ってるんだけど」

「入っているから来たんじゃないですか」


 彼女は何を言っているんだと言う表情を見せると、「みんなで一緒にって言いませんでした?」と首を傾げる。


「え、それって女子みんなでって意味じゃなかったの?」

「違いますよ。瑛斗さんと入るために、みんな水着のままなんですから」

「なるほど」


 そう言えば、僕も「絶対に水着を着て入ってくださいね?」って念を押されてたんだ。

 てっきりお風呂で海水を流す効率的な方法かと思ったけど、あの時にちゃんと気付くべきだったね。


「もし瑛斗さんが一人の方がいいのなら、私たちは後にしますけど……」

「ううん、水着だから大丈夫」

「ふふっ、そう言って貰えると思いました♪」


 麗華は嬉しそうに笑うと、僕の隣に腰かけて体を洗い始める。それを見ていた紅葉も反対側の隣に座って、わしゃわしゃと長い髪を洗った。


「……」ジー

「……」ジー


 イヴは鏡越しに僕を見つめ、それを真似するようにノエルもじっと見てくる。同じ顔がこうして二つ並んでると、なんだか少し不思議な感じもするね。


「イヴ、洗って欲しいの?」

「……」コクコク

「甘えん坊だなぁ。いいよ、おいで」


 イヴを手招き、自分が座っていた席に座らせてあげる。前に奈々の髪を洗ったこともあるし、銀髪と言えど方法が変わったりはしないだろうから大丈夫だよね。


「瑛斗くん、私は?」

「ノエルは自分でできるでしょ」

「なんだかイヴにだけ甘くないかな?!」

「そんなに洗って欲しいの?」

「もちろん!」


 ウンウンと首を縦に振るノエル。普段アイドルのお仕事を頑張っているだけあって、お休みの日くらいは自分で何もしたくないってことなのだろう。


「わかった、イヴが終わったらしてあげるから」

「よしっ!」

「先に体洗っといて」

「りょうかい!」


 ピシッと敬礼のポーズをすると、ノエルは小走りで空いているシャワーの前へと移動していった。

 そのまま足を滑らせて、積んであった風呂桶の山に突っ込んで行ったけど、怪我もしてなそうだからきっと大丈夫だろう。


「ノエル、お風呂で走ったらダメだよ」

「は、はぁい……」


 桶を元通りに積み直しながら、ノエルは泣きそうな声で返事をした。まだお湯に浸かってもいないのに、のぼせたみたいに顔が真っ赤だったよ。

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