第149話
あれから僕とイヴは、昼ご飯としてノエルが注文してくれたお弁当を食べ、少し休憩すると完全に回復していた。
ついさっきまで生きるか死ぬかの瀬戸際にいたとは思えないほどだ。人間ってのは意外としぶとい生き物なんだと、身をもって実感したよ。
「イヴちゃん、こっちに来てもらえる?」
「……」フリフリ
「やっぱりダメみたいね」
イヴはトラウマになってしまったのか、海から
一人だけ仲間外れというのもかわいそうなので、責任という訳では無いけれど、僕が一緒に砂浜で遊んであげることにする。
「バケツとスコップ、持ってきててよかったね」
「……」コク
どっちが早く泳げるかの勝負をしているらしい紅葉たちを遠目に眺めつつ、2人でバケツの中に砂を溜めていく。
「どんなお城がいい?」
「……」カキカキ
イヴはスコップを砂の上に突き立てると、ガリガリとそこに文字を書いてくれる。
「いや、ク〇パ城は難しいかも」
「……」シュン
「チャレンジはしてみよっか」
「……」コクコク
とりあえずは城の原型となる砂の山を作らないとね。僕はいっぱいになったバケツをひっくり返して、プリン型の砂のタワーを用意する。
それを汲んできた海水をかけて固め、新たに砂のタワーを作り、2つのタワーの間を埋める。この作業を繰り返して、一辺80cm程度の立方体を作った。
「これを丁寧に削れば、少しはク〇パ城に近くなると思うよ」
「……」
「どうしたの?」
「……」ジー
イヴは何やら砂の立方体を見つめると、スコップでその根元を掘り始める。
何をしたいのかは教えてくれないけれど、何となく城作りは取りやめになったことだけはわかった。
「もしかしてトンネル?」
「……」コクコク
彼女は何度も頷くと、僕に反対側からもやって欲しいとジェスチャーで伝えてくれる。
トンネル作りなんて幼稚園の時以来だから、なんだかワクワクしちゃうね。
僕は言われた通りにイヴの向かい側に回ると、そこからスコップで砂を掘り始めた。
「周りを固めながら掘るのがいいんだよね」
いくら慎重にやっても、トンネルの天井や壁がもろければ簡単に崩れてしまう。
その場のことはその場でしっかりと終わらせてから前に進む。奥が深いね、トンネルだけに。
数分後、僕たちは完成したトンネルからお互いを覗きあって満足げに頷く。
「こっちからだと海が見えて綺麗だよ」
そう言ってイヴに手招いて一緒に穴を覗くと、海と一緒に遊んでいる紅葉たちの姿も見えた。なんだか彼女たちが小さくなったように見えて面白い。
「楽しそうだね、みんな」
僕が何気なく呟くと、イヴの表情に少し影かかかる。どうしたのか聞いてみようと思ったが、それよりも先に彼女が口を開いた。
「……瑛斗くん」
「どうしたの?」
喋るなんて珍しいと少し驚いていると、彼女は僕の手を掴んで立ち上がった。そして、あろうことか海へ向かって歩き始める。
「お、お姉ちゃん達と遊びたいんでしょ? もう平気だから、い、一緒に行こ……」
イヴそう言いながら波打ち際に立つと、ギュッと目をつぶって海へと足を――――――――――。
「なんか変だよ」
―――――――――――――付けられなかった。
寸前で僕が彼女を引き寄せたから。
「っ……」
腕の中に収まったイヴの体は小刻みに震え、息も少し荒い。やっぱり無理してたんだね。
「急に変な事言うからびっくりしたよ」
「……だって、私のために残らせちゃってるから」
「あ、砂遊びのこと?」
「……」コク
そんなことを気にしてたんだ、今まで全く気付かなかった。イヴは隠すのが上手だからなぁ。
「イヴ、友達なら自分の気持ちを殺したりしないで」
「私がやらないと瑛斗くんに我慢させちゃう……」
「誰が我慢してるなんて言ったの?」
彼女が「だって……」と言いかけたところで、「だってじゃない」と強制的に口を塞ぐ。
「僕、嘘がつけるほど器用じゃないよ。イヴと一緒が嫌なら一緒にいたりなんてしない」
「……」
「紅葉たちとイヴ、どっちの方が一緒にいて楽しいとか無いよ。みんな友達だもん」
「…………」コク
イヴはじわっと滲んだ涙を慌てて拭い、いつも通りの真顔に戻ってくれる。感情は出してくれてもいいけど、そこはなんとなく読み取れるし別にいいかな。
「……♪」
「トンネル、もっと作るの?」
「……」コクコク
「わかった、いくらでも付き合うよ」
そんなやり取りをして砂の立方体に近付こうとすると、海の方から飛んできたビーチボールが目の前に転がった。
「ごめんなさい!
後ろの方から「あなたが飛ばしすぎたんでしょ?!」と怒りの声が飛んできたが、
「……」ジー
「考えないとですね、小さい人のことも」と言いながら戻っていく麗華の後ろ姿を、イヴはじっと見つめていた。
「どうしたの?」
「……」ジー
イヴは何やら自分の胸元をポンポンと触りながら麗華の方を確認し、もう一度自分のに触れて悩ましげに首を傾げる。
それを数回繰り返したあと、決心したように僕の方を向いた彼女は、胸の真ん中で両手を重ねながら、不安そうな上目遣いで聞いてきた。
「……これでも、嫌じゃない?」
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