第140話
今日は疲れているということもあって、海に足をつけるだけにした。せっかくだし、ノエルが来てから堪能したいもんね。
それにしても、暑い日には海だってパリピが言うのも納得したよ。足だけでもすごく気持ちよかった。
そして、その日の夜は叔父さんが頼んでおいてくれたデリバリーのお寿司を食べ、少し休んでからお風呂の時間だ。
大きい家なだけに大浴場がついてるらしいけど、それでも風呂は一つだけ。この場合はもちろん男女に別れて入ることになるんだけど……。
「どっちから入る?」
その質問に「私はお兄ちゃんと一緒に!」と答えた
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「大きなお風呂は気持ちいいわ」
「
「っ……な、何が言いたいのよ!」
結局、瑛斗は先に入り、女性陣が後になった。
彼女らの言い分では『女の子はお風呂が長いから後にする』ということだったが、本当にそれが理由なのかは本人たちにしか分からない。
「それにしても、唯斗さんは幸せ者ですね。こんな可愛い女の子に囲まれるなんて」
「それを自分で言うところが真っ黒なのよ」
「あら、
「……むかつく」
ただ、だからといって素直に自分を可愛いとは思えなかった。というよりも、ひとりぼっちが染み付いていた彼女から、容姿が良くても無意味だという考えがまだ抜けていないのだ。
「でも、S級2人にA級が1人、イヴさんはS級のお姉さんと同じ容姿ですよ。これで平然としているのが不思議です」
「確かにそうね。実は意外とドキドキしていたりして……」
紅葉はそう口にして、麗華と同時に「いや、ないない」と首を横に振った。あの瑛斗に限って、そんなことはありえない。
そう信じて疑わない2人に、湯の熱さに慣れず足だけをつけている奈々が口を開いた。
「でも、お兄ちゃん。昔に好きな人がいたことはあるんですよ」
「……え?」
驚く紅葉に奈々はクスリと笑って話を続ける。
「小学生の時の話ですよ。その女の子と頻繁に公園で遊んでました。6年生になった頃、全く遊ばなくなりましたけど」
「どうして遊ばなくなったの?」
「理由は知りません。私にも女の子の話を聞かせてくれていましたが、それ以降は元々存在しなかったかのように何も言わなくなりました」
頭にハテナを浮かべる紅葉。彼女とは対照的に、麗華の方はなにかに気付いた顔をしていた。
「瑛斗さん、私に言ったことがあるんです。『優しくするのはあの時の償いだ』って」
「償い?」
「はい。もしかすると、その女の子に対しての償いだったんじゃないですか?」
麗華の言葉に、紅葉と奈々は考え込んでしまう。悩んでも答えは出てこないが、本人に聞くというのもすこし気まずい。
「……」ツンツン
そんな3人を気にも留めず、頭を洗い終わったイヴがトコトコと歩いてきて、湯気の立つお湯をツンツンとつつく。温度チェックだ。
「……」フーフー
熱かったのか指先に息を吹きかけて冷まし、おそるおそる足先から入っていく。が、途中で耐えられなくなったのか、また湯の外へと飛び出してしまった。
その際に縁に小指をぶつけてしまい、イヴは足を押えたまま無言でタイルの上に転がる。
「何やってるのよ……」
そんな彼女を見かねた紅葉は浴槽を出ると、かけ湯から冷水を汲んできて足の指を冷やしてあげた。
「器用なのか不器用なのか分からないわね……」
「……」ペコリ
「礼はいいわよ、勝手にやったことだもの」
彼女はそう言い残して、もう一度湯の中へと戻る。肩まで浸かって一息つくと、麗華がにんまりと頬を緩めた。
「東條さんも優しいところがあるんですね?」
「べ、別に普通よ。それにイヴちゃんは敵じゃないもの。仲良くできる相手にまできつく当たったりはしないわよ」
「私とも仲良くして欲しいんですけど」
「それは無理。勝負が終わるまでは」
紅葉がそう言うと、麗華は「そのことですが……」と小さくため息をつく。
「結局、私は上辺だけの友達を捨てた訳ですからね。友達は多ければいいという考えは間違っていました」
「あら、素直に負けを認めるの?」
「はい、私たちだけの勝負は東條さんの勝ちです」
「……その言い方、学園長提案の方は諦めるつもりがないってことでいいのよね」
「ふふ、当たり前です。唯斗さんは渡しませんよ?」
こうして二人の間でひとつの争いが終わりを迎え、そして新たな争う理由を確かめ合ったのだった。
「2人だけで進めないでください!私もお兄ちゃんを渡しませんよ!」
「……あなたはとりあえずS級になってから出直しなさい」
「……そうですね。あと、瑛斗さんとの血縁関係をなくすのも忘れないでくださいね」
「絶対に無理なんですけど?!」
そんな感じで、女子だけの入浴タイムは終始賑やかだったそうな。
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