第139話

「そう言えば、寝る場所はどうやって決めるの?」


 僕のその一言で、ぐったりとしていた彼女らはガバッと立ち上がった。イヴだけは相変わらず眠そうにしているけど。


「ベッドは3部屋に2つずつあるみたいだよ」


 ノエルも合わせてピッタリ6人だから、自然と全てのベッドが埋まることになる。

 紅葉くれは麗華れいかは互いに顔を見合わせている。それが何を意味するのかは分からないけど、2人ともどことなく顔が赤い。


「2人っきり……よね……」

「2人だけの夜……ですね……」


 そんな彼女らの間に割って入った奈々ななは、瞳をキラキラとさせながら僕に抱きついてきた。


「お兄ちゃんと一緒に寝ていいのは、私だけだよね!」


 彼女の言い分としては、高校生の女の子が男と寝るのは良くないとのこと。それを言えば、妹と言えど奈々も高校生なんだけどね。

 しかも、奈々の方がリミッターを外す恐れがある。どちらかと言うと僕の身の方が危ないんじゃないかな。


「妹と言っても、奈々ちゃんはブラコンだから例外よ」

「そうです!理性を失いかねません!」


 紅葉と麗華がそうヤジを飛ばすと、奈々はふふんと鼻を鳴らしながら腕を組む。なんだか偉そうな態度だ。


「ブラコンですよ、何が悪いんですか?」

「開き直った?!」

「曲者すぎますね……」


 そこはかとなく大物感漂う態度に少し腰が引けている2人。奈々は彼女らを順番に指差すと、口元をにやりとさせた。


「そもそも、私はお兄ちゃんが大好きです。ですが、お2人はそんなこと口にしたことありませんよね?」

「「っ……」」


 奈々の言葉に2人が痛いところを突かれたといった表情を見せる。はたから見てるだけの僕からすれば、紅葉も麗華も友達だからね。

 そこにあるのは愛情じゃなくて友情だと思うけど。


「好きでもない男と同じ部屋で寝る。そんなこと出来るわけないですよね?」

「それは……」

「だから、お兄ちゃんのことが大好きな私が寝ると言っているんです。むしろ感謝されるべきでは?」

「ちっ、A級のくせに生意気ですね……」


 麗華も思わず舌打ちをしてしまうほど苛立っているらしい。これ以上は危険だと止めに入ろうとすると、それよりも早くイヴが3人の間に割り込んでいた。いつの間にか気分も回復したらしい。


「……」ジー


 彼女は僕をじっと見つめると、何を思ったのか右腕にギュッと抱きついてくる。

 紅葉が「な、何やってるのよ!」と離れさせようとするも、イヴはブンブンと首を横に振ってしがみついていた。


「イヴ、もしかして一緒がいいの?」

「……」コクコク


 彼女は何度も頷くと、僕の手のひらに文字をなぞってくれる。


『ひとりはさびしい』


 その言葉の意味するところを考えると、確かにこの場にいるのは5人だから誰かは一人で寝なくてはならない。

 6人目の参加者がノエルである以上、同じ部屋で普通に寝ることの出来るイヴがその一人になる可能性が高かった。

 それが分かっていたから、イヴは僕というペアを確保することで、ひとりになるのを避けようとしているのだろう。


「抜け駆けは許しませんよ!」

「……」シュン


 だが、その作戦も奈々によって遮断され、議論は振り出しに戻された。イヴがなんとなく悲しそうな顔をしているように見える。

 何とかしてあげたくはなるけれど、ほかのみんながダメというのだから仕方ないよね。


「じゃあ、僕が一人で寝るよ。それなら奈々も文句ないでしょ?」

「ま、まあ……誰かと寝るよりはいいけど……」


 どうせ家では一人で寝てるわけだし、明日にはノエルも来るからね。大きなベッドを2つ並べた広さ、あれを1人で占領できると思えば悪くない。

 その時の僕は疑うことも無くそう思っていた。でも、一人で寝るということは隙を大きくするということにも繋がる。

 つまり、寝ている間に誰かが忍び込んできても、気がつくことがないということで―――――――。

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