第137話
「
ここは最近開店したらしい水着専門店。形状やタイプ別に分けられた水着があちこちに吊り下げられており、どこを向いても水着のない場所が見当たらないくらいだ。
僕はササッと悩むことなく選んでしまったため、店の中央に戻ってきても紅葉たちはまだ戻ってきていない。
とりあえず座って待つことにしようとイスに向かって歩くが、ふと5歳くらいの女の子が一人でキョロキョロしているのが見えた。迷子だろうか。
「どうしたの?」
怖がらせないように目線の高さを合わせながら聞くと、女の子は少しの間戸惑っていたらしかったけれど、やがてたどたどしい口調で話してくれる。
「ママにどれがいいかきめてていわれたの。でも、みつからなくて……」
「お母さんはどこに行ったの?」
「おとーとのおむつをかえてる」
ということはトイレだろうか。ここからだと距離があるし、帰ってくるまで時間がかかるはずだ。
それにしても、こんな小さな子を1人で残すのは少し危険だと思うけどなぁ。
「お兄ちゃんも一緒に探してあげようか?」
「いいの?」
「遠慮する必要ないよ、暇だからね。どんなのが欲しいとかはある?」
女の子は元気よく頷くと、身振り手振りをしながら一生懸命伝えようとしてくれた。
話を聞く限りは、アニメのキャラクターがプリントされた上下が別々の水着らしい。
「子供用はこの棚だけだから、とりあえず全部見てみよっか」
「うん!」
元々親と一緒に見るように作られているのか、上の段は子供では届かない高さになっている。僕はそこから二着ずつ取り出しては、女の子に「これ?」と聞く作業を繰り返した。そして――――――。
「ピンクはあるけど、黄色はないみたいだね」
「きいろがいい……」
落ち込む女の子にピンクで我慢してとは、さすがに言えない。僕は「店員さんに聞いてみよっか」と女の子の手を引いてレジの方へと向かった。
その結果、在庫の中に黄色があるということで、女の子はそれを持ってイスに座りながら待ち、戻ってきた母親と笑顔で店を後にする。
「おにーちゃん、ありがと!」
満面の笑みで手を振ってくれる姿を見ると、声をかけてよかったと思えるね。
「……ねえ、瑛斗?」
「紅葉、遅かったね」
「少し悩んじゃったのよ。それより……」
やっと帰ってきた紅葉は、何やら気まずそうに僕をチラチラと見ている。隣のイヴもどこかよそよそしい。言いたいことがあるならはっきりと言ってくれればいいのに。
「と、友達だから言うんだけど……
「わかってるよ?」
「なら、子供用じゃ入らないこともわかってるわよね?」
「そりゃそうだよ、もう高校生だし」
紅葉は一体何を言っているんだろう。僕が理解できないという表情をしていると、彼女は大きく息を吸い込んだ後、思い切ったようにストレートな言葉を発した。
「子供用の水着を買うのは……どうかと思うわ!」
「子供用?――――――ああ、そういうことか」
どうやら2人は、さっき僕が店員さんに女の子の水着について質問しているところを見たのだろう。
周りには棚や吊り下げられた水着があったから、背の低い女の子は見えていなかったらしい。
僕がそう教えてあげると、紅葉は耳まで真っ赤になって「は、早く言いなさいよ!」と怒ってしまった。
イヴの方は見た目は変わっていないけれど、指先がピクピクとしている。勘違いや思い込みってのは恐ろしいね。
「ところで、紅葉とイヴはどんな水着を選んだの?」
「……それは秘密よ」
「……」コクコク
「どうせ見ることになるのに」
「ここで見せるのと海で見せるのじゃ訳が違うの」
「……」コクコク
イヴも同意しているみたいだし、紅葉の言っていることは間違っていないらしい。
男だからなのかは分からないけど、僕としては着れればいいと思ってるからね。本人たちが見せたくないというのなら、海での楽しみの一つにしておこうかな。
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