第135話

「ふふ♪」

「なんか、嬉しそうだね」

「っ……そんなことないけど?!」

「ええ、僕は嬉しいよ?」


 終業式の翌日、僕たちは海へ行くのに必要なものを揃えるため、ショッピングモールに来ていた。


「……♪」

「ほら、イヴもだってさ」

「わ、私だって嬉しいわよ!」


 買い物にはイヴも着いてきてくれている。ノエルは今のところ行けるかわからないらしく、なんとかスケジュールを開けようとマネージャーさんと相談しているんだとか。


「一応、ノエルの分も買っておこうか」

「……」コク


 どの日焼け止めがいいのかと眺めていると、お気に入りのやつでもあるのか、紅葉くれはが迷うことなく手に取る。CMでよく見るやつだ。


「でも、小さい方で足りるかしら」

「紅葉は塗る面積も小さいし、足りると思うよ」

「……大きい方にするわ、念の為に」

「じゃあ、1番大きいサイズにしようよ。僕も一緒に使うから」

「なっ?! 一緒なんていやよ!」

「安心して、ちゃんと半額は出すし」

「そこを気にしてるわけじゃないんだけど?!」


 そんなやり取りをしていると、イヴがトントンと肩を叩いてくる。見てみると、『彼氏or友達と2人で使うのにピッタリ!』と書かれた日焼け止めを差し出して来ていた。


「……」ジー

「それを一緒に使うってこと?」

「……」コクコク


 彼氏や友達云々は謳い文句として、確かにこれなら余ることもなさそうでコスパもいい。みんなバラバラに買うよりかは、賢いお買い物かもしれない。


「じゃあ、そうしようかな。紅葉も嫌がってるし」

「え、瑛斗えいとがどうしてもって言うなら、一緒に使ってあげても……」

「そういう感じならいいや」


 嫌がっているのに無理矢理ってのもややこしくなるし。楽しい旅行なんだから、なるべくそういうことは避けたいよね。


「あっそ。じゃあ、小さい方でいいわ」

「いや、大きい方の方がいいと思うよ。紅葉の背が伸びるかもしれないし」

「あるわけないでしょ!」

「7頭身の夢は終わったの?」

「恥ずかしいから思い出させないでくれる?!」


 結局、紅葉は大きい方を買っていた。余っても使う場面はあるかもしれないもんね。


奈々ななはこれって言ってたかな」

「……」ジー

「ノエルはこれ?」

「……」コクコク

「じゃあ、これで全員分だね」


 選んだものをカゴに入れ、次に向かったのは浮き輪エリア。どうやらイヴは泳ぎが得意じゃないらしく、浮き輪は必須アイテムなんだとか。

 僕も昔のじゃ小さいだろうし、この機会に買っておこうかな。


「イヴ、いいの見つかった?」

「……」コクコク

「どれ?」

「……」ジー


 彼女が指差した先にあったのは、見本として吊り下げられている浮き輪。穴が2つあるタイプのやつだ。


「穴はひとつでいいんじゃない?」

「……」フリフリ


 イヴは首を横に振ると、僕を指差してからダラっと波に揺られているようなジェスチャーをしてくれる。どうやら2人で浮かびたいらしい。


「わかった、それにしよっか」


 どうせ別行動する訳でもないんだし、バラバラで買うよりも少しお得だ。イヴは買い物が上手なんだなぁ。


「……♪」


 嬉しそうに肩を揺らした彼女は、棚にある浮き輪の箱へ手を伸ばす。が、商品を掴む前に体をビクッとさせ、逃げるようにこちらへ駆けてきた。


「どうしたの?」

「……」プルプル


 この震え具合、まさか――――――と棚を見てみると、やっぱりそこにあった。カエル型の浮き輪だ。箱に描かれた写真に気が付いて怯えているらしい。


「僕が取ってくるよ」

「……」コクコク


 ギュッと服を掴まれながらも、素早くお目当てのものだけを持ってその場を離れる。イヴの背中を撫でて落ち着かせているところへ、レジャーシートを取りに行ってもらっていた紅葉が戻ってきた。


「その浮き輪、双子で使うつもり?」

「……」フリフリ

「はぁ? 瑛斗となんて、まるでカップルじゃない」

「……」ブンブン


 イヴは首を大きく降ると、カゴの中から日焼け止めを取り出し、そこに書かれた『友達』の2文字を指差す。


「ああ、あなたはそっちのつもりなのね……」

「……」コク

「ちょっと安心したわ」

「……?」

「なんでもない。会計、さっさと済ませちゃうわよ」


 紅葉の言葉に頷き、僕たちはレジへと向かった。それにしても予算よりかなり安めに済ませれたよ。買い物スキルって大事だね。

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