第131話

 期末テストを8日後に控えた今日、全校生徒が体育館へ集められていた。

 今回はアイドルによるやる気アップ会などではなく、正式な『ランク測定日』なのだ。

 ここでランクが上がる人もいれば下がる人もいるらしいけど、今より下がないからなのか、それとも上がるはずがないからか、緊張は全く感じていない。


「じゃ」

「お先に失礼します!」


 現高ランクの人から測定するため、麗華れいか紅葉くれはは先頭で案内されて行った。1人ずつ測っていくらしいし、しばらく暇になりそうだなぁ。

 そんなことを思っていると、突然耳元で囁かれた。


「こんなことなら、教科書でも持ってくればよかったね」


 驚いて振り向くと、そこに居たのは銀髪の少女。そう言えば彼女もE級だから後ろの方なんだった。

 ただ、いつもの無表情は面影なく、すごい至近距離でニコニコ笑いかけてきている。


「っていうか、イヴじゃなくてノエルだよね?」

「おおっ、さすが」


 彼女は感心したように頷くと、周りに聞こえないくらいの小声で教えてくれた。


「ランク測定日だけはいつも髪の色を交換してたんだ。じゃないと、あの機械で普通にバレちゃうからね」

「なるほど。まあ、学園長はもう知ってると思うけど」

「でも、何も言ってこないってことは、隠してくれてるってことだと思う。面倒なんじゃないかな?」


 確かにと僕は頷く。もし入れ替わりに今まで気付けていなかったことが世間に知られたとしたら、学園長自身も信用を失いそうだもんね。


「ところで瑛斗えいとくん?」

「なに?」


 ノエルは何やらモジモジすると、上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。何か言いたいことでもあるのだろうか。


「私からの告白、断ったでしょ?」

「断ったね。だって、あれも入れ替わりを隠すための作戦だったんでしょ?」

「ま、まあ、そうだったようなそうでないような……」


 彼女は何やらソワソワしながら独り言を呟いた後、思い切ったように僕の制服を掴んでグイッと引っ張る。そして無理矢理屈ませると、耳元でそっと囁いた。


「付き合うのは無理でも、遊びに誘うのはOKなのかな……って」

「なんだ、そんなことか」


 恋愛感情が何かも分からないのに付き合うのは、自分でも不誠実だと思うから遠慮させてもらうが、友達として遊びに行くだけなら問題は無い。


「でも、アイドルでしょ?そういうの大丈夫?」

「全然大丈夫!変装するからね!」

「かぼちゃは持ってこないでね。僕まで変な目で見られるから」

「それ、仮装と間違えてない?」

「あっ」


 ノエルは僕の顔を見ると、クスクスと堪えきれず笑いをこぼす。

 今の彼女は周りから見ればイヴだから、あまり笑顔は見せないほうがいいと思うけど、見回す限りこちらを見てる人はいないから大丈夫そうだ。


「まあ、そういうことならいいよ」

「じゃあ、夏休みは予定空けといてね」

「逆に、予定があると思われてるの?」

「ううん、思ってない♪」


 そりゃそうだ。去年の夏休みだって、家から出たのは散髪とコンビニの用事くらいだからね。

 肌が真っ黒になってるクラスメイトを見て、ヤクザに捕まって全身に焼きを入れられたのかと思ったくらいだよ。あれからその人と目を合わせないようにしちゃったし。


「でも、行くなら紅葉も誘うよ?せっかくなら一緒に楽しみたいからね」

「そ、そうだよね。私もイヴを連れて行きたいと思ってたところだよ♪」

「そうだ、奈々ななと麗華にも声をかけようかな」

「奈々?あ、妹さんだよね」

「あれ、知ってるんだ?」

「あの子は色々と有名だから……」


 彼女の言う『色々』がどんな意味なのだろうと考えていると、ようやくS級が全員終わったらしく、A級の奈々が歩いてくるのが見えた。

 彼女は僕を見つけると、満面の笑みで手を振ってくれる。仕舞いには投げキッスまで。

 自分に向けられているのではと勘違いした男子達は、奈々が「お兄ちゃん、また後で!」と出ていったことで顔を真っ赤にしてまとめて撃沈した。


「ああ、こういう意味で『色々』だったんだね」

「あはは……そういうこと」


 苦笑いするノエルと倒れている男子生徒を交互に見て、僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。奈々にはちゃんと注意しておかないとダメだね。

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