第130話
僕の正面ででお弁当を食べる
「……これからずっと一緒に食べるつもり?」
「はい、そのつもりですよ?」
あの日から、麗華は僕らと一緒にご飯を食べるようになった。形だけの友達とはさよならする、そういう強い意志を持っての行動だろう。
「どうして当たり前みたいな顔してるのよ。取り巻きたちもこっちを見てるわよ」
「元取り巻きです。それに私は
「あとから混ざってきたくせに随分と偉そうね」
「そちらこそ、少し態度が大き過ぎませんか?」
僕に仲良くしてるフリがバレたからか、顔を合わせればすぐにこうやって言い合いを始める。
でも、これはある意味良い関係なのかもね。麗華も喧嘩ができる友達が欲しいって言ってたし。
「なら、どちらが瑛斗さんとご飯を食べるに相応しいか、勝負で決めましょう」
「ふふ……この前の私と同じだと思ったら大間違いよ?」
2人はそう言うと、お互いにスマホを取り出して構える。アプリを開いたら通信開始。
どこでも手持ちのモンスターを使ってバトルを楽しめる『ボケモン
数日前にも一度こんなことをしていたけれど、彼女らの中でブームになっているみたいで、フレンド登録もし合っているんだとか。
「な?! いつの間にそんな強いモンスターを?!」
「ふっ、家の近所が出現スポットだったのよ。2時間探してようやく捕まえてやったわ!」
「で、でも、その1体だけでは戦力差を埋めることなんて……」
「誰が1体だけと言ったかしら?」
「……ま、まさか?!」
紅葉はニヤリと笑うと、ドヤ顔で画面を見せ付ける。麗華の横から覗き込んでみると、そこには同じキャラが3体並んでいた。
「イベントでも捕まえられて2体のはずです!豪運の持ち主でない限りは……」
「ふふふ、あなたの目の前にいるのがそれじゃない。戦う前から負けを認めてもいいけど?」
ふんふん♪と鼻歌を歌いながら、彼女はバトル申請を送信する。画面を見つめたまましばらく悩んでいた麗華は、「いえ、諦めません!」と受諾。
3体ずつモンスターを選んでバトル開始だ。
「この戦力差、負ける方が難しいわね!」
紅葉の高笑いが教室中に響いた。
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「う、嘘よ……私が負けるなんて……」
結局、負けたのは紅葉だった。キャラを捕まえただけで満足して、育成していなかったのだから当たり前だ。
おまけに何を出すか既にバレていたせいで、相性の悪いキャラを選んで出されていたし。
「それでは、さっさとどこかへ消えて下さい。と、言いたいところですが……」
麗華は見下すような顔を微笑みに変えると、小さくため息をついて紅葉を見つめる。
「『私の方が後から来た』という主張も最もなので、モンスター1体交換で許してあげますよ」
「し、
立ち上がろうとしていた紅葉は一瞬だけ瞳をうるっとさせると、目元を拭ってスマホを差し出す。
「好きなのを選んでいいわよ!」
「ふふっ、ならお構いなく……」
なんとも平和的な解決方法だ。これでこそ友達らしい。……まあ、少しばかり悪戯心は抜けていないみたいだけどね。
「って、3体とも居なくなってる?! 白銀 麗華、あなた全部取ったでしょ!」
「好きなのを選べと言ったのは東條さんですよ?」
「1体だけに決まってるでしょ?!」
その後、「返しなさいよ!」「お断りします!」のやり取りは、昼休みが終わるまで続いた。お弁当食べれてなかったけど大丈夫なのかな。
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