第130話

 麗華れいかが転校して来た日から一週間が経ち、その名前が定着してきた頃。

 僕の正面ででお弁当を食べる紅葉くれはは、どこか不満そうに右側をチラチラと見ていた。


「……これからずっと一緒に食べるつもり?」

「はい、そのつもりですよ?」


 あの日から、麗華は僕らと一緒にご飯を食べるようになった。形だけの友達とはさよならする、そういう強い意志を持っての行動だろう。


「どうして当たり前みたいな顔してるのよ。取り巻きたちもこっちを見てるわよ」

取り巻きです。それに私は東條とうじょうさんではなく、瑛斗えいとさんと食べるために居るので」

「あとから混ざってきたくせに随分と偉そうね」

「そちらこそ、少し態度が大き過ぎませんか?」


 僕に仲良くしてるフリがバレたからか、顔を合わせればすぐにこうやって言い合いを始める。

 でも、これはある意味良い関係なのかもね。麗華も喧嘩ができる友達が欲しいって言ってたし。


「なら、どちらが瑛斗さんとご飯を食べるに相応しいか、勝負で決めましょう」

「ふふ……この前の私と同じだと思ったら大間違いよ?」


 2人はそう言うと、お互いにスマホを取り出して構える。アプリを開いたら通信開始。

 どこでも手持ちのモンスターを使ってバトルを楽しめる『ボケモン5』というゲームらしい。

 数日前にも一度こんなことをしていたけれど、彼女らの中でブームになっているみたいで、フレンド登録もし合っているんだとか。


「な?! いつの間にそんな強いモンスターを?!」

「ふっ、家の近所が出現スポットだったのよ。2時間探してようやく捕まえてやったわ!」

「で、でも、その1体だけでは戦力差を埋めることなんて……」

「誰が1体だけと言ったかしら?」

「……ま、まさか?!」


 紅葉はニヤリと笑うと、ドヤ顔で画面を見せ付ける。麗華の横から覗き込んでみると、そこには同じキャラが3体並んでいた。


「イベントでも捕まえられて2体のはずです!豪運の持ち主でない限りは……」

「ふふふ、あなたの目の前にいるのがそれじゃない。戦う前から負けを認めてもいいけど?」


 ふんふん♪と鼻歌を歌いながら、彼女はバトル申請を送信する。画面を見つめたまましばらく悩んでいた麗華は、「いえ、諦めません!」と受諾。

 3体ずつモンスターを選んでバトル開始だ。


「この戦力差、負ける方が難しいわね!」


 紅葉の高笑いが教室中に響いた。


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「う、嘘よ……私が負けるなんて……」


 結局、負けたのは紅葉だった。キャラを捕まえただけで満足して、育成していなかったのだから当たり前だ。

 おまけに何を出すか既にバレていたせいで、相性の悪いキャラを選んで出されていたし。


「それでは、さっさとどこかへ消えて下さい。と、言いたいところですが……」


 麗華は見下すような顔を微笑みに変えると、小さくため息をついて紅葉を見つめる。


「『私の方が後から来た』という主張も最もなので、モンスター1体交換で許してあげますよ」

「し、白銀しろかね 麗華れいか……」


 立ち上がろうとしていた紅葉は一瞬だけ瞳をうるっとさせると、目元を拭ってスマホを差し出す。


「好きなのを選んでいいわよ!」

「ふふっ、ならお構いなく……」


 なんとも平和的な解決方法だ。これでこそ友達らしい。……まあ、少しばかり悪戯心は抜けていないみたいだけどね。


「って、3体とも居なくなってる?! 白銀 麗華、あなた全部取ったでしょ!」

「好きなのを選べと言ったのは東條さんですよ?」

「1体だけに決まってるでしょ?!」


 その後、「返しなさいよ!」「お断りします!」のやり取りは、昼休みが終わるまで続いた。お弁当食べれてなかったけど大丈夫なのかな。

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