第127話
「私は……姉の
そう大きな声を出したカノジョを、
これまで自分を指してきた名前を、まるで他人のように言った。ならば、カノジョは一体誰なのか。
「やっぱり、そう言うことだったんだね」
瑛斗には既に見当がついていた。
「……え?」
「前に学園長室へ呼び出された時、文科省の
「?」
カノジョはいまいちピンと来ていないらしかったけれど、
「あの時、学園長の机の上の資料が目に留まってね。文科省の作成印が押されてたから、結衣さんが持ってきたものだと思う」
あの時は別の用事で呼び出されていたし、深く気にする必要も無いと思っていた。けれど、イヴとノエルの秘密を知った今だからこそ分かる。
「あれは
「……間違い?」
「そう。例えば、名前が違うとか、性別が違うとか、そもそも人が違うとかね」
あえて最後のだけを強めに言うと、カノジョの眉がピクリと動いた。
もはや隠すつもりもないカノジョにとって、それは些細な動作だったかもしれないけれど、僕にとっては不確実だった点と点のつながりがはっきりした瞬間だった。
「
その質問に
そして、ため息のような深呼吸をしてから、全てを話し始めた。
「麗子はちょうど10年前の今日、死にました」
「だから、今日じゃなきゃダメだったんだね」
「心のどこかで、区切りをつけたいと思っていたのかもしれません。でも、そんなことは許されない」
麗華は喉元で震える声を絞り出すように言葉を紡ぐ。その表情は影がかかったように暗く、後悔や悲しみのようなマイナスの感情ばかりを感じる。
「麗子が死んだのは、私の責任なんです。運動音痴だった私の練習に付き合わせたりしなければ、彼女はまだ生きていたはずなんです」
「白銀さん。いや、麗華のせいじゃないよ。事故が起こるなんてこと、誰にも予想できないんだから」
「いえ、麗子は予知していました。彼女はあの日、家から出ることをすごく拒んだんです。なのに、私が駄々を捏ねたから……」
人は時に不思議な力を発揮したりする。
死の間際はやたら時間が長く感じたりするし、通常の反応速度ではありえない動きを体が勝手にする時もある。
それらは全て、危機的状況にある自分をそこから脱却させようという働きのせいであり、麗子のそれも同じようなものなのだろう。
「彼女はあの時、私が危険な目に遭うことを予知していた。だから車に撥ねられそうになった私を突き飛ばして、身代わりになったんです」
「……」
「私はパニックになりながらも、どこか冷静な部分があったんだと思います。救急車と両親が到着した時、落ちていた麗子の髪留めを見つけました」
麗華はそう言いながらポケットを探ると、中から半分に割れた髪留めの入った袋を取り出す。
「顔も声も瓜二つ。見た目で見分ける時は髪留めの色で判断されていたんです。私は何故か、自分の髪留めを外し、麗子のものと一緒にポケットへしまいました」
「それは、入れ替わりを決意したから?」
「いえ、その時は自分でも理由はわかりませんでした。それでも警察の人に名前を聞かれた時、躊躇うことなく答えたんです」
『
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